胆石性膵炎の論文 Gut2023
2020年にLancetにAPEC studyが掲載されました(APEC studyに関する記事はこちら)。そのstudy終了後、そのまま連続してAPEC-2 studyが行われました。この試験は、重症胆石性膵炎で、発症から72時間以内かつ来院後24時間以内にEUSを行えた症例を対象としています。EUSで胆管結石が見つかればERCPに移行する(EUS-ERCP群)と、過去のAPEC studyでの保存治療群を比較しています。
APEC studyの続きで、さらにRCTではなくなっているので、APEC studyと同様かさらに多くの問題があります:
①胆石性膵炎の診断について
結局胆石性膵炎という診断に曖昧さがあります(胆管拡張を伴う膵炎というだけで胆石性膵炎に組み入れられた)。この胆管拡張の症例が2割程度含まれています。
②介入群の問題
また、EUS-ERCP群では、緊急ERCPは64%で試行されました。64%しかERCPをしていないので、緊急ERCPがエンドポイントに寄与しないと本当に言っていいの?という疑問もあります。
③エンドポイント(アウトカム)の問題
この試験では複合エンドポイントになっています(死亡、多臓器不全、胆管炎、肺炎、膵内外分泌機能不全など)。胆管炎と肺炎では全然意味が違いますよね。胆管炎は膵炎の原因でもある胆石で起きますが、肺炎は膵炎の結果ADLが低下したり人工呼吸器を装着した結果起こります。膵内外分泌機能不全は、そもそも飲酒歴やDM歴と重症度にも影響を受けます。意味が違うものを複合すると、結果の解釈が曖昧になるんですね。
著者らの結論としては、「今回のAPEC-2試験とAPEC試験の結果を総合すると、胆管炎を伴わない胆石性膵炎患者において、(EUSガイド下でも)緊急ERCPは重大な合併症や死亡率を減少させないことがわかった。したがって、胆石性膵炎を有する患者には保存的治療戦略を推奨し、胆管炎を合併している場合(緊急適応)および症候性または持続性の胆管結石症(選択適応)の場合のみERCPを実施する。」です。
まあ結局、保存治療群でも、待機的に後日31%で試行(胆管炎発症や胆石による症状と判断)されたのですが、重症膵炎の状態に緊急ERCPの負担を追加する必要はないでしょうということですね。でも、胆石性膵炎なのに、待機的ERCPが31%しかないのは不思議です。日本のガイドラインですが、総胆管結石は無症候性であってもERCPを行うことを推奨しています(弱い推奨)。そのため重症膵炎が改善したらERCPをもっと高頻度にやりそうなもんです。やはりこの試験における胆石性膵炎という診断の不確実さを表していると思います。ただし、オランダの試験なので、総胆管結石は、胆嚢結石とともに腹腔鏡手術で一期的に採る症例が多いとも考えられます(ESGEに、総胆管結石と胆嚢結石を一期手術していいことは記載があります。ERCP→胆摘の二期手術との優劣の記載はありませんが)。
ということで、胆石性膵炎という集団を正確に対象にできていない可能性があることだけでも日常臨床に当てはめられないでしょうし、さらにはエンドポイントの曖昧さもあります。そのため私は、「胆石性重症膵炎は、胆管炎や胆石発作の確からしい合併が起こるまでは保存的治療を選択し緊急ERCPや早急なEUSをやらなくてもいいかもしれないし、重症膵炎が改善したところでERCPを検討すればいいかもしれない」くらいに捉えておこうと思いました。画像的に乳頭部への嵌頓が明らかなら緊急ERCPをやった方がいいと思います。
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