胆石性膵炎の論文 Lancet2020
皆さんはこの論文読まれましたでしょうか。
オランダで行われたRCTです。
ざっくりと言えば、「胆石性膵炎に対して緊急ERCPは予後を改善しなかった」というものです。一見すると、ERに来た患者の対応が変わりそうな結論ですが、Methodに疑問を感じたので採り上げることにしました。
私は本文を取り寄せましたが、abstractはネットで見れます。
①最も気になることは、胆管炎を除外した胆石性膵炎を対象にしていることです。
胆石性膵炎において、実臨床でどれだけ正確に胆管炎を除外できるでしょうか。
(ちなみに今回の試験では、「胆管炎は、総胆管結石/ 総胆管拡張/胆汁うっ滞のいずれかを伴う発熱と定義した」「胆汁うっ滞とは、無作為化時に血清ビリルビンが2~3mg/dL(40μmol/L)以上、または総胆管の拡張(75歳以下では8mm以上、75歳以上では10mm以上)があることと定義した。」と記載されています(本文のMethod)。)
②膵炎が「胆石性」である根拠の1つに、胆管拡張を入れていることも気になります。膵炎でなくとも、高齢者や胆適後の人は本論文の胆管拡張を満たす人たちはいます。そのような人たちが膵炎を起こしたら胆石性膵炎としてしまうのはちょっと雑だと感じます。
③また個人的に気になることは、この論文で実際に胆石を認めた症例は76%ですが、胆石の場所の記載がないことです。さすがに乳頭部嵌頓を疑う画像所見があれば、緊急ERCPを検討したいのですが、本論文では胆石の場所に記載がありません。
④最後にprimary endopointについてです。
この試験では複合エンドポイントになっています(死亡、多臓器不全、胆管炎、肺炎、膵内外分泌機能不全など)。胆管炎と肺炎では全然意味が違いますよね。胆管炎は膵炎の原因でもある胆石で起きますが、肺炎は膵炎の結果ADLが低下したり人工呼吸器を装着した結果起こります。膵内外分泌機能不全は、そもそも飲酒歴やDM歴と重症度にも影響を受けます。意味が違うものを複合すると、結果の解釈が曖昧になるんですね。
で、この複合エンドポイントには差がなかったのですが、個別に見ると胆管炎だけは保存治療群に有意に多く発生する結果となりました。
私の結論として、このAPEC試験では、胆石性重症膵炎でも緊急ERCPは不要という結論だが、"胆石性"膵炎の診断に不確実さがあり、後日の胆管炎は保存治療群で多く発生しており、複合エンドポイントの曖昧さもあり、実臨床にそのまま当てはまらないと考えています。
またこの論文は、重症膵炎をターゲットにしていること、その重症膵炎の診断方法は日本とは違うことにも注意は必要です(日本の胆石性膵炎にそのまま当てはめられない)。
私としては、CTや採血で乳頭部に嵌頓していることが疑われれば緊急で、そうでなければ胆管炎の重症度に応じてERCPのタイミングを決めようと思っています。
皆さんの考えも聞かせてもらえたらうれしいです。
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