膵臓癌の化学療法

2021年7月15日

nal-IRIやオラパリブなどが話題ですが、既存薬を含めてどのような順序で使いますか。とくにセカンドラインが問題です。

使用できるレジュメは、
  mFFX :Oxaliplatin+Irinotecan(IRI)+5FU+Leucovorin(LV) =FOLFIRINOX
  GnP  :Gemcitabine+nabPaclitaxel
  NAPOLI:nanoliposomalIrinotecan(nal-IRI)+5FU+Leucovorin(LV)
  GEM  :Gemcitabine
  S-1 :TS-1
  オラパリブ
  ペムブロリズマブ
  エヌトレクチニブ
が代表的なものです。これらの適応と、適応があるレジュメを投与する順番が重要です。
NAPOLIは、mFFXからOxaliplatinを抜いたようなレジュメですね。IRIはnal-IRIとして改造されてますし個々の薬剤の容量も少ないんですが、イメージし易いようにしておくことは、患者さんへの日常的な説明のためにも大事だと感じています。

主な薬剤の報告がなされた時期は、以下になります。
胆道癌に比べれば多いですね。

上の段はフッ化ピリミジンが入っているもの、
下の段はGEMが入っているもの。

まずは主な薬剤に対する私のイメージですが、

GnPとmFFXは、奏功率3割程度(SDまで含めた病勢コントロール率:DCTは7-8割)。stageによりますが、余命は1-2年。副作用は、grade3以上の好中球減少はmFFXが4割、GnPが2割で、末梢神経障害はそれが逆転する。その他食思不振、吐き気、下腿浮腫、皮疹などがちらほら。
(細かいデータを覚えておくこともありますが、そういったことが増えると忘れ易いので、大まかなイメージを持っておくと日常診療がやりやすいと感じています。)

S-1やGEM単剤は、DCT3割程度、余命6ヶ月程度。倦怠感や食指不振などによる忍容性の問題は、GEMの方が軽い印象です。実際、内服のS-1の方が消化器毒性は出易いという報告はありますね。

NAPOLIですが、このエビデンスはセカンドラインとしてのものです。5FU/LVと比較して2ヶ月ほど全生存期間を伸ばしました。ファーストラインとしてのエビデンスがないので難しいのですが、5FUと同じフッ化ピリミジン系であるS-1とmFFXの間くらいの効果とイメージしています。しかしGnPのセカンドラインとして使用した場合、mFFXとNAPOLIで優劣がつけ難いデータがあるので、ファーストラインとしてのエビデンスであるGnPやmFFXと、セカンドラインのエビデンスであるNAPOLIを比較するのは難しいですね。ただし、NAPOLIの治験をやった先生の講演会を拝聴させて頂くと、「縮小効果は強くないが、SDが長く続く(long-SD)」を特徴として感じているとのことでした。

ゲノム医療の治療薬ですが、エビデンスに関してはオラパリブのPOLO試験が有名ですね。PFSをプラセボの3.8ヶ月から7.4ヶ月に延長させました。OSは差がなかったようです。しかしその次のレジュメを使うまでの期間延長の効果があったようで、全ての選択肢を使用できるような症例ではOSも改善するかもしれないですね。しかしゲノム治療薬単体の有効性は、基本的にOSはあまり伸びず、他のレジュメと合わせて総合的に予後改善に寄与する程度をイメージしています。

NAPOLIには少し留意する点があって、mFFXなどのIRIベースの治療歴がある場合、また65-75歳以上では、治療効果が落ちる可能性が報告されています。

まずはIRI治療歴がある場合の報告から。
Mercade TM, et al. Liposomal Irinotecan + 5-FU/LV in Metastatic Pancreatic Cancer. Pancreas 2020)(C YOO, et al. Real-world efficacy and safety of liposomal irinotecan plus fluorouracil/leucovorin in patients with metastatic pancreatic adenocarcinoma: a study by the Korean Cancer Study Group. Therapeutic Advances in Medical Oncology 2019

続いて、高齢者の場合の報告。(Macarulla T, et al. Liposomal irinotecan and 5-fluorouracil/leucovorin in older patients with metastatic pancreatic cancer – A subgroup analysis of the pivotal NAPOLI-1 trial. Journal of Geriatric Oncology 2019

しかしこの試験では、副作用に関しては、若年者と高齢者でほぼ同等であると報告されています。

治験をやった先生の講演では、「ピークは強くない副作用が長めに続く」ということでした。消化器症状も通常の2-4日のピークではなく、5-7日にピークが来る。また骨髄抑制のnadirも遅いようです。
そのため減量を要する場合も、骨髄抑制では減量しますが、遷延する消化器症状では減量ではなく期間延長(2週間→3週間)が有効な場合もあるとのことでした。
UGT1A1の変異症例(ヘテロでもホモでも)でも使用可能なようです。ただし、減量して投与を開始し、忍容性があれば2コース目から増量を考えます。
こういったピークが強くない特性のため、75歳以上の高齢者でも忍容性があると考えられているようです。

NAPOLIの話が多くなりましたが、ここまでが個々の薬剤のイメージです。


続いては、上記レジュメを使用する順番ですが、

私は、85歳以上の超高齢者でも強い希望がある場合は、GEM単剤でやってみることがあります。BSCを希望する患者さんが多い層ですが。

では、全力を尽くすような切除不能/再発の症例、conversion手術を目指す症例に対してはどうでしょうか。


忍容性があるならファーストラインはGnPかmFFXですね。
とくにはGnPで、世界のファーストラインの8割を占めると発表していた講演会もありました。
本邦では、全年齢層におけるファーストラインの約50%はGnPです。

実際にGnPかmFFXかは、まだ結論は出ていませんが、
JCOG1407の中間報告では、1年目はGnP、2年目はmFFXが優勢になるようですね。
副作用もmFFX>GnPというわけではなかったようです。
ただしこの試験、十分なサンプルサイズを用意した検証試験ではないことに注意してくださいとのことでした。
しかし治療効果としては、どちらもファーストラインとして有用とのことでした。

ではセカンドラインはどうでしょうか。
セカンドラインとしてのNAPOLIのエビデンスは、あくまで5FU/LVに対しての優越性です。5FUなんてほぼS-1です。
しかしmFFXのセカンドラインとしてのエビデンスもまた乏しいです。

これは、セカンドラインとしてのmFFXの報告ですが、Partial Response(PR)が10.6%、SDまで含めると56.8%だったようです。しかしOSは7.0ヶ月で、NAPOLIは上述したように6.7ヶ月ですから、同等のように見えます(患者背景も時代背景も変わる可能性があるので、こういう違う試験での比較はあくまでもイメージとしてですが)。
Masashi Sawada, et al. Modified FOLFIRINOX as a second-line therapy following gemcitabine plus nab- paclitaxel therapy in metastatic pancreatic cancer. BMC cancer 2020

直接比較した試験は、レトロスペクティブですがあります。(HS Park, et al. Liposomal irinotecan plus fluorouracil/leucovorin versus FOLFIRINOX as the second-line chemotherapy for patients with metastatic pancreatic cancer: a multicenter retrospective study of the Korean Cancer Study Group (KCSG). ESMO open 2021

mFFXとNAPOLIで差はなかったようですが、サブグループ解析では、
・70歳未満ではmFFXがNAPOLIよりもOSで優れ(9.8ヶ月 vs 6.6ヶ月)
・70歳以上ではmFFXがNAPOLIよりもOSでもPFSでも劣っていた(9.5ヶ月 vs 10.4ヶ月:OS)

有害事象に関しては、好中球減少と末梢神経障害はmFFXで多かったのですが、その他の副作用は差がなかったようです。
しかし、1コース目から減量はmFFXがNAPOLIより多かったようです(78.5% vs 33.7%)。

まだ遺伝子検査からの治療薬の話が少し残っていますが、ここまでの結果ではどのような順番での投与がいいと思うでしょうか。
私は、忍容性の問題も含めて、GnP→NAPOLIのラインにしようと思っています。

余談ですが、サードラインとして、mFFXからIRIを抜いたFOLFOXを使うという施設もあるようです(NAPOLIで使ったIRIはサードラインで使えないため)。そこは残った薬剤に望みを掛けるというだけで、エビデンスはありません。

では最後に遺伝子変異からの治療薬ですが、
代表的なものはMSI-highに対するぺムブロリズマブ(キイトルーダ)とBRCA変異に対するオラパリブ(リムパーザ)ですね。
しかしどちらの変異も日本人には2-3%しかないようです。
あとはNTRK融合遺伝子があればエヌトレクチニブ(ロズリートレク)がありますね。

オラパリブ(リムパーザ)の使いからは少し特殊で、BRCA変異がある場合はプラチナ製剤の有効性が高いようです。オラパリブ(リムパーザ)はその後の維持療法として使用できます(維持療法とは、SDをそのまま保つことを目的としたものです)。具体的には、mFFXを少なくとも16週間使用し、SDを保っていれば使用できます

以上から、私は現状では、通常例ではGnP→nal-IRIを。BRCA変異がある症例ではmFFX→オラパリブを考えています。
オラパリブの次をNAPOLIではなくGnPとしたのは、IRI治療歴があるとNAPOLIの効果が減弱する症例もあるからですが、GnPのサードラインとしてのエビデンスがあるわけではないので、そこはもう患者さんと副作用による忍容性の相談になると思っています。

まとめると以下の感じです。


ここからは余談ですが、遺伝子パネル検査の話。

遺伝子パネル検査は標準治療に不応となった患者さんが保険適応です。
治療薬は企業から無償提供になりますが、検査費用の自己負担分は57万円です。
検査を受けた全体の話ですが、3割程度の人が治療薬が見つかり、2割程度の人が実際に治療薬を始められるようです。
(膵癌では、上述した通り遺伝子変異が見つかる可能性は低いですが。)


そこにたどり着くまでの流れですが、けっこう長いです。

第3回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議

標準治療をやり尽くした患者さんに1-2ヶ月待機できる体力があるかは問題です。
検査しても患者説明まで行かないと48000点の保険請求ができずに病院持ち出しになります。
この必要な待機期間の問題から、最低1ヶ月は待機可能な患者さんが必要条件になります。

実際に使われる治療薬のエビデンスレベルは、下記のC,Dが多くなります。