その人固有の癌治療へ

2021年12月29日今月の論文紹介

私が癌治療に関わるようになった数年前は、殺細胞性の抗癌剤を順番に使用していくことが主流でした。
しかし近年は、癌細胞の遺伝子変異を調べることで、その人の癌固有の治療選択肢が追加できる可能性がでてきました。皆さんはこの、遺伝子変異に対する特異的な治療に関してどのようなイメージをお持ちでしょうか。

遺伝子変異が見つかる確率は、今回紹介する試験では26%でした。京大やがんセンターなどの複数の講演会に参加してみると、膵癌ではそれよりも少ないようです。症例数が少ないために、エビデンスレベルが高い試験は組みにくく、そのためケースシリーズレベルの研究でも保険認可されることがあるようです。
そのため効果に関しては高くない可能性も説明しつつ治療に入ることもあるようです。質の高い試験を組みにくいために効果が不透明なものですが、その中でもどれだけ効果があるのかをより深く研究した論文が2020年に出版されましたのでご紹介します。

今回ご紹介する論文(Know your tumor registry trial)は、1082例の遺伝子検査を行った患者を対象としています。とくにその中で、遺伝子変異が見つかった282例(26%)を、さらに遺伝子変異に基づいた治療をした群としなかった群に分けて後方視的に検討したところ、生存期間中央値は2.5年と1.5年であり、1年もの差があったとしています。

ただしこの論文は後方視的研究であり、著者らはLimitationとして、この試験に参加する時点で患者のselective bias(つまり先進的な検査や治療を受ける施設への通院などが可能)があること、標準的な殺細胞性抗癌剤の有効性に偏りがあるかもしれない点を挙げています。

Limitationのことはありますが、長期的に予後を改善できる可能性が見え、患者さんにより積極的に勧めたくなる結果でした。(この検査が保険的に認められる時期、検査できる医療機関へのアクセス、国の医療費などの問題はありますが)