重症膵炎の輸液で迷うタイミング② 実例編
前回の記事のテーマは、血管内容量に思いを馳せるでしたね。
前の投稿で、私の頭の中で考えていること編を書きましたが、ここでは実際の症例を提示していきます。
ごく一部に膵壊死を伴うようなCTgrade2の重症膵炎でした。
1日目は、バイタルは安定しておりましたが、Lac高値にて、初日は3000ml(140ml/h)程度に輸液しました。このようにショックを想定する状態では、輸液はあまり迷いません。バイタルは安定していたので、翌日は輸液+単品食飲水で維持量よりやや多め程度に設定しました。しかし3日目には、尿量低下とCr上昇となりました。
ここで皆さんは輸液をどうされますか?
入院時のLacや、重症膵炎として急な炎症反応上昇からは血管内脱水がほぼ明らかと考え、ここは迷わず輸液を再増量しました。
これにより尿量とCrは改善しましたが、維持量にすると再び尿量が減少し始めました。この7日目の時点では、レントゲン上の胸水は増加傾向でした。
皆さんなら輸液をどうされますか?
BNPは低値で、心不全による漏出性胸水の可能性は低い状況でした。そしてIVCは虚脱し、Lacはまだ高く、AlbやCRPの値からはむしろ血管内は脱水で、胸水は浸出性と考えました。そのため、胸水は増悪していますが、輸液を再々増量することにしました。
またこの時点で、麻痺性イレウスが高度となり、プリンペランやガスモチンなどの腸管蠕動を促進する投薬を行なっても改善せず、絶食となっています。
7日目に輸液を増やし、いったんはCrが再上昇が改善しました。。7日目から10日目までは、AlbやCRPから血管外へ水分が出てしまう病態がまだ続くことが予想されたため、輸液は多めのまま4日ほど経過観察しています。
では11日目になり、この状態では輸液はどうしましょうか?
尿量やCrは安定しつつありますが、AlbやCRPはさらに悪化し輸液を絞れば再度AKIが増悪する可能性があります。しかし胸水は増悪傾向です。
尿量やCrは安定しつつありますがAlb低下傾向+CRP上昇傾向であり、まだ血管外へ漏れ続け、輸液を絞れば再度AKIが増悪すると考えました。つまり、溢水からの漏出性胸水というよりは低Albによる浸透圧の問題と、浸出性胸水(膵炎の炎症が横隔膜や胸膜へ直接波及、高度炎症に伴う血管透過性亢進、無気肺からの肺炎随伴性胸水など)が胸水の主な要因と考えました。
そのため輸液を絞ると、尿量減少とCr増加が速やかに出現するような5日の状態になってしまうかもしれず、輸液は維持量やOUT量と比較し多めのままとしました。
膵炎の炎症は自然改善を待つしかありませんが、低Albは胸水に関与している可能性があると考え、予後改善にはあまり寄与しないことはしりつつも、藁にもすがる思いで12日目から投与しました。
しかし14日目に挿管となりました。
反省点としては、12-13日の時点でAlbを入れたこともあり、輸液は1本分ほど絞ってよかったと思います。しかし挿管の際もBNPは正常で、Lacも正常ですが高めで、炎症もまだまだ高値ということで、やはり浸出性の病態がメインであり、全身の臓器血流を維持するには避けられない輸液と挿管だったと考えています。
(このときのIVCは、挿管後の胸腔内陽圧の結果であり、溢水か脱水かの指標にはならないと思います。)
このような状態では、適切な血管内容量を考察しつつ、それでも出てしまった肺水腫、胸水による呼吸不全に対しては、挿管して炎症が落ち着く時間を稼ぐしかないかと思います。
では、この次の輸液はどうしましょうか。
挿管した14日目は、炎症は高いですがピークを越えたことやLacも一応は2未満のため血管内脱水の要素は今後減少すると判断し、胸水改善を願って体液バランスは絞る方向へシフトしています。
輸液は絞ってフロセミドも投与したのですが、胸水は増悪しました。
やはり浸出性の病態がメインの胸水だと考えました。
17日目以降も絞る方針のままで維持量以下の補液とラシっクスを継続してみましたが、胸水はかなり絞った状態でも予想通り減りませんでした。1リットル胸水穿刺をして呼吸状態は改善し、19日目に抜管しています。胸水はライトの基準で浸出性でした。
今回はこのような形で重症膵炎の急性期を乗り切りました。
その後は経管栄養と合わせて維持量程度としています。
おおまかな方針は、『循環不全があれば初期に比較的大量輸液をして、その後にゼロかマイナスバランスにするタイミングを、血管内容量の指標から毎日検討し続ける』でした。
「開いた蛇口を閉めるタイミングは、それを開始した時から常に意識する」でしたね。
輸液は難しいので、皆さんのやり方をコメント頂けたら幸いです。
以下は余談です。
急性期は乗り切っても、
・WON
・WONによる胆管や十二指腸の閉塞
・仮性動脈瘤破裂
などの合併症が起こり得ます。その場合はネクロセクトミー、胆管ステント、EUS-HGS、消化管バルーン拡張術、IVRなどで対処していきます。
これは、入院から28日目のCTです。
感染性のWONを合併し、ドレナージだけでは改善せず、Hot AXIOS™ System (Boston Scientific)を留置してのネクロセクトミーとなりました。
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