RJチップス第3回 統計的に正しい医療を行う話

2022年10月21日

皆さん、腹痛の患者さんが外来に来たらどのような手順で診療しますか?病歴と身体所見は当然として、エコーはやりますか?いきなりCTですか?
私たちは1人の患者さんに集中できることなど一生ありません。常に複数の入院と外来の患者さんを受け持ち、検査と治療を行い、国の医療費を変えています。検査には感度や特異度、治療には成功率と偶発症率、医療費には金銭と常に数字がついて回ります。数字があるなら統計ができる!
統計的に正しい医療を導けるのか、RJ先生に解説してもらいました。

シンプルな問題で考えていきます。設定はシンプルでも、計算をしていくのでちょっと鬱陶しく感じるかもしれません。でもできれば紙とペンを用意して、私たちと一緒にご自分の手を動かして見て下さい。理解度が段違いに上がります。ではさっそく。

まずは状況を整理しましょう。感度や特異度や診断率の話になったら、とにかく脳死で4×4表を思い出します!

感度=A / A+C
特異度=D / B+D
有病率=検査前確率=A+C / A+B+C+D
またよく提示されるものとして偽陽性がありますが、偽陽性= B / B+D = 1-特異度です。

この表と感度や特異度などのメモをぜひ自分でも書いて見て下さい。

今回に必要な公式/定義の確認

そしてリスクとオッズの定義も知っておきましょう。統計をやる上でよく出てくる用語なので、定義を覚えた方が他の項でも理解が進みやすくなります。

リスク=あり/全数
オッズ=あり/なし = あり/全数-あり

です。上の表でいえば、検査ありの人が実際に感染しているリスク=A / A+B、オッズ=A / B です。
オッズ=あり/なし、なのであることが起こる確率がYだと分かっているなら、オッズ = Y / 1-Yです。

また陽性尤度比という用語があって、陽性尤度比=感度/1-特異度です。
そして検査前オッズx陽性尤度比=検査後オッズという公式があります。
つまり検査前確率をZ、検査後確率をYとすると、Z/1-Z x 感度/1-特異度 = Y/1-Yという式が出来上がります。

少し公式的なことの確認をしたので、話が問題文から脱線していました。戻ります。
次は問題文の要約です。問題文の最初から順に行きます。

1000人に1人の感染なので=有病率=検査前確率=0.001
検査1は、疾患があれば99.9%陽性になるので=感度0.999
検査1は、疾患がなくても0.1%で陽性になるので=偽陽性0.001
検査1は、特異度=1-偽陽性=0.999

検査2は、疾患があれば95%陽性になるので=感度0.95
検査2は、疾患がなくても5%で陽性になるので=偽陽性0.05
検査2は、特異度=1-偽陽性=0.95

ここまでで問題文の要約もできました。もう問題が解ける状態です。
上に書きました検査前オッズx陽性尤度比=検査後オッズという公式を使います。オッズは確率Yを用いてY/1-Yと表すこともできるのでした。つまり検査前確率をZ、検査後確率をYとすると、Z/1-Z x 感度/1-特異度 = Y/1-Yという式が出来上がり、これらは問題文要約で手に入れた数値を入れるだけで検査後確率Yが導けます。

見にくいのは承知で全て数値を入れたものを提示します。
0.001/(1-0.001) x 0.999/(1-0.999) = Y/1-Y
1=Y/1-Yとなり、Y=0.5です。
つまりこの患者さんが本当に感染している確率(検査後確率)は50%なんですね。
感度99.9%、特異度99.9%という物凄い精度を持った検査ですら、有病率(検査前確率)が低ければ、検査後確率はこんなもんです。

「1000人に1人の有病率では、感度99.9%、特異度99.9%という検査でも、本当に疾患がある確率は50%」
これはイメージとして持っておくといいです。

ではこの続きになります、(2)の問題にいきましょう。

検査2は、検査1で陽性となった患者にのみやる検査です。
つまり検査1の検査後確率が、検査2にとっては検査前確率になります。

(1)の問題のときにやっておいたことですが、もう一度提示します:
検査2は、疾患があれば95%陽性になるので=感度0.95
検査2は、疾患がなくても5%で陽性になるので=偽陽性0.05
検査2は、特異度=1-偽陽性=0.95

また、検査前オッズx陽性尤度比=検査後オッズという公式を使います。オッズは確率Yを用いてY/1-Yと表すこともできるのでした。つまり検査前確率をZ、検査後確率をYとすると、Z/1-Z x 感度/1-特異度 = Y/1-Yという式が出来上がりましたね。

また見にくいのは承知で全て数値を入れたものを提示します。
0.5/(1-0.5) x 0.95/(1-0.95) = Y/1-Y
19=Y/1-Yとなり、Y=0.95です。
つまり検査1陽性かつ検査2陽性の患者は、本当に感染している可能性が95%ということです。検査前確率が高ければ、感度95%と特異度95%の検査であっても、検査後確率はかなり高くなります。

これをイラストにするとこんな感じです。もうここまでで疲れていると思いますのでボケ〜っと眺めてくれたらいいです笑


はい、ではこのことをどう日常診療に活かせばいいのでしょうか。

RJ

まず第一の教訓は、検査をする前に、検査前確率を上げる努力をしなさいということですね。病歴と身体所見で検査前確率が高いと判断した疾患を狙って検査をしないと、いくら良い検査をして陽性が出ようが検査後確率も大したものにならないということです。これは(1)の問題からの教訓ですね。

第二の教訓は、精密検査の前の簡易検査をスキップすることを考えるということです。例えば、若年の軽症肺炎を疑う患者さんが来たとします。レントゲンには写らないような気管支炎かもしれない。または自分の読影力が突出したものではなくレントゲンの所見を見落とすかもしれない。つまりレントゲンを撮影しても、「レントゲン後の検査後確率=CTの検査前確率」が上がらないかもしれない、レントゲンを挟むことが診断には何も寄与しない状況を考察すべきということです。これは(2)の問題からの教訓ですね。

いやーおもしろかったですね!私から一点だけコメントするなら、今回のことは「1つの疾患の診断」だけに注目した考え方だということです。肺炎は、脱水が改善することで画像の浸潤影が明瞭になることもあります。つまり入院後もフォローするような症例がいるということです。その際に入院時と比較してどうかという考え方をすることがありますが、入院時にCTしかないとフォローもCTを撮るのかということになるんですね。レントゲンを撮っておけば、ポータブルレントゲンで患者移動を不要だとか、費用の問題も軽減されます。または心不全を疑う病態が出現した時にも入院時と比較で判断しやすくなります。このように「入院時病名以外の併存疾患が合併しそう=併存疾患合併の検査前確率が高い人」は、それを簡易的にフォローできる検査をやっておいてもいいかもしれませんね。


RJ

今回の感度や特異度に関連があることで、もう1つ伝えておきたいことがあります。
まずは上の事項が理解できたらこちらも気にしてください。こちらは緊急性の有無によって検査を行う種類とタイミングを変える話です。

SnNout(エスエヌエヌアウト), SpPinという言葉があるように、感度が高い検査は徐外に有用で、特異度が高い検査は確定に有用なのでした。ERなどで緊急性が高い検査で優先するものは?
もちろん “病歴で検査前確率が高くかつ緊急性が高い疾患に対してSnNoutの感度が高い検査を複数同時に当てて、とにかくやばい疾患でないことを確認する"ですね。
これをsimultaneous screrningといいます。直訳は「いっせいに」なのでそのまんまですね笑

では外来や軽症入院などで落ち着いてやれる場合はどうでしょうか?
そう、今回の本題でやったこと “検査の前段階で検査前確率を高め侵襲度の低い検査を順に当てていけばいいです。ただし1つ目の検査が、2つ目の検査の検査前確率を上げることが必要条件です" ということでしたね。
こちらはcontinuous screeningといいます。

検査のオーダーの仕方が整理されてきましたね!
この件に関しても私から1つ追記するとしたら、日常臨床では病歴、身体診察、検査は一方通行ではないということです。診察し始めはこの順番になることが多いのですが、検査までやってから病歴や身体診察に戻り情報を集め、浮かんできた鑑別診断たちの検査前確率をさらに上げる下げるということ(鑑別診断の検査前確率に凹凸をつけること)をして、次の検査をしましょう。

2022年10月21日

Posted by ガイドワイヤー部長