重症膵炎の輸液で迷うタイミング① 私の頭の中編

2021年7月8日

重症膵炎の輸液で迷う時って、胸水による呼吸不全かAKIの時じゃないですか?
ショックの時は、あまり迷いませんよね。

今回は、そんな時に私がどう考えているか、提示したいと思います。
基本的にはSSCG2016(敗血症のガイドライン)を参考にしています。

まずは胸水ですが、重症膵炎は高度な炎症が横隔膜そして胸腔まで波及し、浸出性の胸水を来たします。
また低Alb血症による漏出性胸水も同時に起こることがあります。
これは心不全による漏出性胸水とは別の病態です。
この重症膵炎の胸水に対して、とくに呼吸不全を来たした場合には、輸液を絞るか(さらにフロセミドを加えるのか)、血管内脱水を危惧して輸液は絞らずに人工呼吸器で凌いで行くのか、を早急に判断していくことになります。

胸水
輸液の考え方

私の頭の中をまとめるとこんなスライドになるのですが、要は、全身に起こっている結果としての胸水やAKIだけを見るのではなく、まず血管内に全身の臓器血流を保つための水分が足りているかを考察するようにしています。
例えば、「胸水があるから輸液をしぼる」のではなく、「血管内脱水がない状態での胸水ならば、浸出性胸水で輸液減量やフロセミドの効果が低いと予想されても試す余地はある」と考えています。
心不全による漏出性胸水ならば、輸液減量やフロセミドは高い効果が見込めますが、浸出性胸水や低Albによる胸水ではそもそも血管内は脱水になっている可能性も高く、それ以上に輸液減量やフロセミドを投与することは臓器虚血(NOMI、AKI、重症疾患に伴う脳梗塞や心筋梗塞など)が惹起されるのが怖いですよね。
逆に、過剰輸液は予後を悪化する可能性もあります。Hjortrup PB, et al. CLASSIC Trial Group; Scandinavian Critical Care Trials Group. Restricting volumes of resuscitation fluid in adults with septic shock after initial management: the CLASSIC randomised, parallel-group, multicentre feasibility trial. Intensive Care Med. 2016 :輸液制限群と標準治療群のどちらも初期ボーラス輸液はかなり多く、日本の現実とは少し合わないようなデザインです。また統計的検出力も足りなかったと結論されています。過剰輸液が予後悪化に関与するかはいまだに検討の余地がありますが参考に。)
Boyd JH, et al. Fluid resuscitation in septic shock: a positive fluid balance and elevated central venous pressure are associated with increased mortality. Crit Care Med 2011


そして輸液の増やし方減らし方ですが、釈迦に説法だとは思いますが、
①前日のOUT量(≒尿量+不感蒸泄+ドレーン)と比較して、当日の輸液を減らせば絞る方向となります。
②維持量の概算(≒体重×30ml)と比較して、当日の輸液を減らせば絞る方向となります。
さらにフロセミドを加えれば、絞る力を強めることになります。


ICUによっては、量を確定できない不感蒸泄は、IN-OUTの計算から外している施設が多いと思いますので注意が必要かと思います。ある成書では700−1200mlと記載されていましたが、私は腎臓内科の先生と相談し500ml程度と考えています。これはINとしてカウントすべき代謝水(1日200ml程度)をまとめて考えているためです。

しかし最も大事だと考えていることは、その輸液量を投与した事後の検証です。
事後に、目的とした項目は改善しているか(胸水が減ったか、AKIは改善しているか)や、逆の血管内の状態になっていないか(脱水と思っていたら心不全などの溢水所見が、溢水と思っていたら脱水所見が)を考えるようにしています。

血管内容量

実際どうやって血管内容量を知るかですが、単一で判断できるような強力な指標は現時点ではまだないとされています。なので複数の指標が全体としてどちら向きかで考えるようにしています。

この文献は、初期に多めの輸液を行い、その後にゼロかマイナスバランスにすることが予後改善に寄与したとする臨床研究の1つです。あくまでも敗血症性ショックなんですが、輸液に関する臨床研究は、敗血症性ショックがやっぱり盛んなんですよね。ARISE, ProMISe, ProCESSという全身管理の大規模試験、それらのメタアナライシスが組まれたのも敗血症でした。

結論として、おおまかな方針としては、『循環不全があれば初期に比較的大量輸液をして、その後にゼロバランスかマイナスバランスにするタイミングを、血管内容量の指標から毎日検討し続ける』ということになります。
「開いた蛇口を閉めるタイミングは、それを開始した時から常に意識する」というのは、輸液だけでなく人工呼吸器のウィニングやステロイドについても耳にする格言ですね。

血管内容量に思いを馳せるんですね

輸液は難しいので、皆さんの思うやり方をコメント頂けたら幸いです。
次の記事で、私の実例を提示していきたいと思います。


ここからは余談になりますが、忘れがちな稀な原因も含めて、膵炎の原因の鑑別をその頻度と共に提示しておきます。

急性膵炎の原因
ふとした時に、私が鑑別から抜けて病歴を聞き忘れそうになるものを、黄色で囲ってみました。