ESTの原理から基本/困難例まで

2022年4月19日

電気密度というEST knifeが切れる原理を理解することで、どのように乳頭にEST knifeを当てたらいいのか、なぜベテラン医がそう切るのかが理解できます。

easy caseから困難例までを解説していきます。

まずはESTを学ぶ意義です。

ERCPは新たなルートを作成する必要がないため、経皮や経消化管を差し置き、今でも胆膵内視鏡の中核となる手技です。そのERCPを完遂するためにESTは必要不可欠です。

では、切り方の前にまずは上手く切るために知っておくべき原理です。

EST knife(パピロトーム)に電気を流すための高周波装置ですが、キーワードは電流密度です。
・高い電圧を用いて放電すると電流は雷のように1点に集まります。
・切開波は、電圧を上げ放電させることで細胞を破裂させることで切開します。
・電流密度を上げるためには、接触面積が小さいほどよく、ESTの際には、パピロトームと乳頭の接触面積を小さくする操作がポイントになります。

また実際のESTの際には、エンドカットモードを使用する施設が多いかと思いますが、これは切開波と凝固波を自動で交互に出すモードです。出血と穿孔を予防する目的があります。切開波の間に凝固波がくるので、ペダルを踏み続けないと凝固波を使用することになりませんので、使い方に注意が必要です。

EST knife(パピロトーム)は、当施設ではOLYMPUS社製のものを使用しています。


実際に切る時は、このEST knifeを、乳頭の切りたい部分を点で意識し、接地面積が小さくなるように当てがえば上手く切れるということになります。

また、ブレード部分が短い短腕タイプのものもあり、十二指腸粘膜が乳頭に被って乳頭全体が視認しにくいような症例での有用性が報告されておりました。

では実際の切開方法です。キーワードは接触面積とテンションです。

①スコープの位置

接触面積を減らし、乳頭にはテンションをかけるようにするため、スコープを引きます。

②切開方向と切開長

胆管は最初11−12時に向かうとされていますので、そちらの方向を意識します。
口側隆起が傾いている場合でも、12時方向をしっかり意識します。
はちまき襞と口側隆起終点の間で切開を止める、中切開が基本です。

③切開

上記で切開のプランが決まれば、実際の切開です。送気により粘膜にテンションがかかるようにしておきます。
乳頭を画面真ん中かやや下に置き、挙上鉗子、スコープの引き、スコープの反時計回しなどの操作で切開していきます。
どの操作で切るのが良いか明確な基準はないため、各施設のやり方でよいと思います。

ここで解剖学的な知識を追加しておきます。胆管は11-12時方向に走行しますが、乳頭周囲の血管は10-11時が疎であるとされています。そのため11時方向が切開し始めの方向として推奨されているのですね。

では話を戻します。
口側隆起から切開のプランを立てることは基本ですが、カテーテルを乳頭に出し入れすることで胆管方向を推測することも有用です。切開方向を正確にする情報はいくらあってもいいですからね。

口側隆起の見た目から予想通り、カテーテルの動きからも11時方向に胆管が走行していることで間違いなさそうです。

先ほどの動画と同症例です。

切開プラン通り11時方向に中切開しています。

ここまでは基本事項ですが、後半は困難例への対処/EST後出血への対処について書いていきます。

困難例は、通常乳頭では口側隆起が傾いている症例/十二指腸粘膜が乳頭に被る症例、それ以外では憩室内乳頭/再建腸管が挙げられます。

乳頭が傾いていれば(写真左)、ブレードをたわませたり、スコープを少しpushしたsemi long positionにすることが有効とされています。

十二指腸粘膜が被ってくる症例では(写真右)、写真のように挙上鉗子を下げたり、ダウンアングルをかけてパピロトームを押し出すことで乳頭に下向きの力を加えられます。また短腕タイプのパピロトームを使用する方法が挙げられます。

憩室内乳頭は、出血や穿孔が増えるとする報告があり注意が必要です。口側隆起を認識しにくい症例もあり、パピロトームの出し入れで方向をしっかり確認します。必要に応じてバルーン拡張を追加することを検討します。

術後再建腸管では、ESDでいう先端系ナイフ(Needle knife)、push型ブレード、ブレード回転式のパピロトーム、EPBDなどの方法があります。

ここからは困難例を動画で提示します。

傾いている症例です。
口側隆起から12時方向を意識し、パピロトームの動きで確認します。
この症例では、ブレードをたわませた状態で、挙上鉗子の操作で口側隆起の12時方向に切開しています。後半はスコープ操作で、中切開を行ないました。
十二指腸粘膜が被っている症例です。
この症例では、右上のパピロトームの位置(=挙上鉗子の位置ということになりますが)に注目してみてください。
そのまま切ろうとすると十二指腸粘膜も切ってしまうので、「挙上鉗子を下げる、ダウンアングルにして下向きにパピロトームを出すという動作にて乳頭を下に下ろして切ります。」粘膜をカテーテルでめくると乳頭の全容が見えます。
(11秒のあたり)挙上鉗子をおろす、ダウン、パピロトームを出す。
スコープ操作をメインに切開しました。
憩室内乳頭です。
口側隆起は、画面上の1時方向に傾いています。しかしパピロトームの出し入れでは、画面上の12時方向に走行していそうと予想し切開しました。やや切開方向が画面上の11時方向に向いてしまっており、もう少し12時でよかったと思います。
術後再建腸管です。
肛門側からのアプローチとなり切開方向の判断に慣れが必要です。
本症例ではブレード回転式のパピロトームを使用しましたが、接触面積が広くなりスムーズに切開できませんでしたので、小切開からEPBDを追加しています。

最後にESTの偶発症について記載します。

ガイドラインや最近の報告、当院でのデータになります。出血や膵炎は数%、穿孔も1%前後にありそうです。

EST後出血への対処法です。

乳頭憩室の症例で、出血源が同定困難であり、EPBDにて圧迫止血が得られた症例です。
バルーン止血後、出血源は同定できなかったため追加処置はしませんでした。

これも乳頭憩室の症例です。

これも乳頭憩室の症例です。
EST後に2箇所から出血し、露出血管が明瞭だったものにはクリップで、不明瞭だったものはAPCで焼灼した症例です。

この画像はOlympusのイージークリップですが、EST後出血に対してはシュアクリップを用いることが多いです。
挙上鉗子を上げたままで、clipの回転や噛むことが容易です。

出血量から出血源を点で同定することが困難だった症例です。HSEにて血流を落とした後にAPCを追加しています。
EST後出血に対するストラテジーです。
出血源が同定不可能な場合は、バルーン圧迫やHSEを考えます。出血が収まらない場合に、coverステント、IVR、手術を考えます。
出血源が同定可能となった場合または最初から出血源が同定できる場合は、露出血管や拍動性出血の有無でclipまたはAPCを選択することが多いです。

ESTによる穿孔についてです。

穿孔部が明確に確認できないようなminor perforationでは絶食とNGチューブなどで保存的に改善する症例が多いです。

後腹膜穿孔するリスクに関しては、CTで予想する報告がありました。

膵実質と胆管下部との接触面積にて判定するものです。ほぼ接しないCtypeが穿孔リスクが高いと報告されていました。

ESTは、通常1分未満で終わるような手技です。
しかしその手技においては、スコープポジション、パピロトームの当て方、切開方向と距離などの思考が必要です。

ESTは、胆道アクセスのために習得すべき必須手技であるが、出血・穿孔・膵炎の低減/合併後の対応のため、知識と経験の積み重ねが必要と思います。

2022年4月19日

Posted by ガイドワイヤー部長