EPBDとESTの使い分け【10mm以下の胆管結石】

2022年11月26日

採石のための乳頭拡張は、ほぼ自動的にESTにしていますよね。
ではEPBDとの使い分けは?最近報告が増えてきたESBDはどういう時に選択する?

今回は10mm以下の胆石を想定した乳頭拡張方法の選択について解説します。

まずは小結石の定義ですが、学会または国際的な定義はありません。そこで複数の論文を参考に、このページでは10mm以下と定義します。このページタイトルの10mmとは、小結石を想定したということです。

EPBDとESTを使い分けるポイントは、採石成功率、短期と長期の偶発症です。

採石成功率ですが、このメタアナライシスではEPBDの方が採石成功率が下がるとしています。ただし注意点として、このメタアナライシスに含まれた14編の研究論文のうち、11編は10mm以上の大結石も含んでいました。小結石に対してもEPBDが劣るかというと、そうは言えませんね。
偶発症については、EPBDとESTで一長一短ですね。
長期成績(再発率と胆嚢炎)はEPBDの方が優れているようです。

10mm未満で2個以内なら、ESTとEPBDは差がないという論文もあります。

そこで、EPBDを考慮する症例をこのように提案します。

ではここで、乳頭拡張の偶発症について解説します。膵炎、出血、胆嚢炎、穿孔、再発ですね。

まずは膵炎ですが、実はESTとEPBDで差がないとする論文も多数あります。

しかし試験中にEPBD群の2例が膵炎で死亡し中止となった試験があり、そのインパクトが強いためESTが国際的に主流となっています。そのためJGES、ESGE、ASGEの各ガイドラインを見てみると、日本とヨーロッパはEPBDを考慮する条件の記載がありますが、アメリカではほぼ推奨がありません。

そうは言ってもEPBDを使いたくなることはあるものです。私の場合は、上に提案したような4つです。
そのような場合でEPBDを行う時に、ERCP後膵炎(PEP)リスクを低減する方法も研究されています。

EPBD自体やり方ではなく、投薬による予防方法は、ESTと共通で有効とされていますね。とくにERCPの前後15分のNSAIDs坐薬は有効とする論文が多数です。

次は出血です。EPBDはほとんど出血しません。そのため抗血小板薬を併用している症例(DAPT)でも、各国ガイドラインはやってはいけないとはしていません(エビデンスは乏しいと付記はされていますが)。
ESTに関しては5%前後の出血率が報告されていますね。その差はおよそ10倍。そのため出血に関してはESTを想定した話になります。

ESTの切り方に関しては別ページで解説してあります。簡単に言うと、「11時方向を狙って中切開をしてください」です。胆管は11-12時方向に走行すると言われていますが、血管分布が疎なのは10-11時と報告されており、11時が良いとされる理由ですね。

もう知っていると思いますが、一応「高出血リスク手技を行う場合の抗血栓薬の取り扱い」も載せておきますね。
やはりESTを想定したもので、EPBDは生検と同様に扱うと考えてもらっていいです(JGESでもASGEでも)。

とくにエビデンスが不足しているのはDAPTやDOACですよね。

ERCP後出血のリスクと考えられているがエビデンスが不足しているのが、DAPTとDOACです。
ESTを行う際の休薬方法は上に紹介した通りです。
EPBDに関しては、DAPT継続のままでも許容されていますがそのエビデンスは乏しいとされています。これに対するpilot studyを紹介しておきます。


DOACに関する研究も紹介しておきます。原則ガイドライン通りにDOACを休薬した場合のEST出血率を研究した後ろ向き研究です。出血率は高くなったが内視鏡的に全例止血可能で、塞栓症の合併もなかったため、ガイドラインの休薬期間は妥当と結論しています。

続いて穿孔です。
穿孔もEPBDではなくほぼESTの合併症ですね。穿孔の合併率は低いので試験を行なってもEPBDと有意差は出ないんですが。

さらに続けます。次は胆嚢炎ですね。
長期的にはESTが、短期的には耐性菌がリスクになるとする報告があります。

標準的に行われているESTの方のデータをまとめます。

ESTガイドライン2015

日本のガイドラインの見解もまとめておきます。

小結石に対する乳頭拡張の基本事項は以上になります。

では最後に、ESBD(endoscopic sphincterotomy with balloon dilation)について解説します。これは、EST小切開+EPBDのことです。解剖学的に口側隆起よりも奥まで括約筋は及んでいる可能性が報告されており、EST小切開にEPBDを加えることで、ESTだけでは届かない括約筋の部分に作用できることを狙っています。これによるメリットは下のスライドの左に記載した通りです。

メタアナリシスもあります。

ESBDの長期的なメリットも報告されています。

ESBDした症例も紹介しておきますね。大きな憩室内の乳頭で、胆管挿管が難しくてEUS-randezvousで胆管挿管しました。完全に憩室内の乳頭だったのと胆管挿管に苦労した症例なので、ESTの穿孔リスクが高いと判断してESBDを行いました。

ESBD専用デバイスも発売されているので紹介しておきます。ESTナイフには保険償還価格は付いていないのですが、このデバイスには付いていることも特徴です。

小結石に対する乳頭拡張について、EST、EPBD、そしてESBDの解説をしました。

やはり基本はESTと思いますが、症例とやり方を選んでEPBDやESBDを行うことで、PEPを低減しつつ短期または長期的な偶発症を低減できる可能性があると思います。

2022年11月26日

Posted by ガイドワイヤー部長