センスじゃない?胆管挿管99%への一歩③ 〜ERCP困難例への対処〜
9割の胆管挿管は、前回までの記事①と②で成功します。この記事では胆管挿管困難例への対処を紹介します(この項はちょっと長いのですが、分けにくい内容でしたのでお付き合いください)。
ERCPにこだわる必要があるか、困難例はとっととEUSにしたらいいじゃないかという話から。
以下のようにERCP成功率が高い施設では、代替手段としてのEUSは、0.6%でのみ必要であったという報告があります。
また"手術ができるような胆管癌や膵癌”、"胆管結石"、"出血傾向のある症例"などでは、ERCPが必要です。
EUSの方が有害事象が増加したという報告もあります(その逆もあります)。
しかし、悪性胆道狭窄でドレナージだけすればいいという症例では、EUS-BDが第一選択になりうる可能性を示唆した報告もあります(この報告に対する記事:ERCPとEUS-BDの比較のメタアナライシス)(EUS-BDの成功率や偶発症に関するメタアナライシス)。
日本の現状では、EUS-BDはERCPの救済手段としての役割で、まだまだERCPが胆膵内視鏡の主役ですね。そしてEUSは瘻孔を形成する必要がある以上、ERCPの方が適切な症例は将来もかなり多くいるはずです。両方の手技に習熟するのが望ましいということですね。
話を胆管挿管に戻します。
どのタイミングでERCPは困難としてEUS-BDに移行するかは難しい問題です。
施設ごとのERCPの技術力、術者の考え方、緩和的ドレナージかbridge to surgeryかなどの患者背景などなど複数の要因が関与します。初回ERCPは不成功でも、precutしておいて2回目をやると成功することも経験されますので、患者に緊急性があるかも関与します。
ERCP胆管挿管の最終手段的なprecutですが、そのカードを早期に切っていく「early precutの有用性」が複数報告されています。そのため以前よりも早い時間に手を出し尽くすことが増えている可能性があります(precutまで要する症例は少ないので、あまり実感はないのですが)。それでもERCPの救済としてのEUS-BDを決定するのは、私はERCPを1時間程度はやってから決断することがおおいように思います(正確なデータではないです)。当院のERCPの救済としてのEUS-BDは1%前後です。正常腸管かつ良性疾患ではほとんどやりませんが、再建腸管では良性疾患でもやることがあります。
では本題に入ります。
ERCPで胆管挿管をトライする時の流れですが、通常は以下のようになるかと思います。
通常法ですが、造影法かWire guided cannulation(WGC)かをまずは選択することになります。造影法は、開口部にカテ先を当てたら造影にて胆管走行を把握し、カテーテル自体で胆管深部へ進んでいく方法です。WGCは、カテ先を浅く当てたら、基本はガイドワイヤーで胆管深部を探っていく方法です。海外ではWGCは、挿管率/PEP/手技時間でメリットがあると報告されていますが、日本で研究をしてみると手技時間のみのメリットという結果でした。
私は、口側隆起が大きい場合は、NDS(口側隆起内の胆管)が蛇行していることが多いので造影法を選択することが多いです。口側隆起が小さい場合は、NDSの走行が直線的なことが多いので、WGCを選択することが多いです。
通常法で5-10分程度やっても難しければ膵管留置法を、それを5分やっても難しければプレカットを考えます。
世界のストラテジーも紹介しておきます。
日本とほぼ同じですね。5-10分または5回程度のトライを目安に次のステップに移っていきます。
これらのストラテジーを踏まえて、私は以下のようにしています。
常に私が術者になるならストラテジーは変わりますが、トレイニーを含めたストラテジーということで提示させていただきます。
このストラテジーはあくまでも目安ですが、これで胆管挿管成功率は99-100%、ERCP後膵炎は4%前後で推移しています。
教育に配慮しながらも好成績を維持できていると思います。
2016年の、当院の胆管挿管の方法の内訳です。
EST未施行のnative papilla 266例のデータです。
上記のストラテジーで、実際はどのようになるのか参考として提示します。
ちなみにこの年の胆管挿管成功率は99.6%でした(初回は98.9%、2回目までを含めて99.6%)。
※2D1C法:2 device 1 channel method
ここからは、一般的な通常法で胆管に入らない場合の次のステップを提示していきます。
近接法、膵管留置法、precut(EPST、NKP)、2D1C法、EUSランデブー法です。
まずは近接法です。原理は入澤先生の論文を引用させて頂きます。
カテーテルの先端を、乳頭の胆管口に浅く引っ掛けておき、スコープを引いて膵管よりも頭側に位置しやすい胆管にロックオン。
さらに胆管は膵管よりも立ち上がりが急なことが多いので、その状態のままアップアングルを掛けることで胆管軸にカテーテルが合うというものです。
次は、膵管留置法です。
double guidewire technicとも言われ、厳密にはその2つの用語は違うものですが、私はあまり気にしていません笑
原理は良沢先生の論文を引用させて頂きます。
膵管にGWを留置したまま、新たにカテーテルとGWを鉗子孔から入れていきます。膵管にGWがあることで、胆管の立ち上がりが緩やかになり、また直線化もされるため、胆管挿管しやすい状況が生まれます。
さらに、乳頭とスコープの位置関係が固定されますので呼吸性変動や蠕動の影響を受けにくくなり、さらにさらに、傍乳頭憩室で乳頭がスコープの方を向いてくれない症例であっても正面視が可能になる場合があります。
トレイニーが習得しやすいアドバンス手技という特徴もあります。
続いてprecutです。
原理は窪田先生らの論文を引用させて頂きます。
口側隆起内の胆管を切り開くということだけなんですが、ちゃんと切れていても、翌日にならないと切開面が分からないことも稀にあります。その意味で、緊急性がなければprecutの1-2日後に再ERCPを行うことは有効だったりします。
やり方ですが、
・方向は口側隆起の12時方向を、
・切開長は口側隆起の2/3程度が基本になります。layer-to-layerという記述がありますが、深さとして浅い切開を繰り返して深さを増し、胆管に到達するようにということです。
そのように切開していくと、十二指腸粘膜とは別な動きをする組織、「毛羽だったラッキョ」のようなものに当たります。これが乳頭括約筋です(つまり、十二指腸粘膜とは違う動きをする、コリコリとして繊維性の毛羽立ちを感じるような構造を見つけ、それを切るとほぼ胆管に入れます)。
出血していたり、括約筋の発達が悪い症例だと、毛羽だったラッキョは分かりにくくなりますが。
まずはEPST。
こちらはNKP。
2D1C法も動画で提示しておきます。
カテーテルと生検(2 device)を1つの鉗子孔(1 channel)に通して行うので2D1C法です。
そっぽを向いている乳頭を、生検鉗子で引っ張ってスコープの方を向いてもらい、カテーテルにて胆管挿管します。
ERCP困難例の救済としてのEUS-randezvousの動画を提示します。
この症例では、胃体部から肝内胆管を穿刺して、GWを十二指腸まで出します。GWを留置したままEUSスコープは抜きます。口からGWが出た状態になりますが、そのGWの脇からERCPスコープを挿入します。十二指腸乳頭部まで進めて、鉗子でGWを掴むことで、胆管とERCPスコープが繋がります。
最後に、私がトレイニーに指導する際に伝えていることを提示して終わりにします。
胆管挿管困難例には、通常法は5-10分程度を目安にし、膵管留置法→precut→ランデブーへと移っていくんですね。
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