急性胆嚢炎に対する内視鏡的ドレナージ

今月の論文紹介,医療

胆石は高齢になるほど有病率が増え、保有してから時間が経つほどに有症状となる確率が上がるとする報告もあります。つまり急性胆嚢炎は高齢者に多いため、治療の第一選択である胆嚢摘出術は非適応になってしまうケースも少なくありません。
本論文は、代替手段として経皮的治療(PTGBD)よりも内視鏡治療を推し、さらにERCPによる経乳頭的な治療よりもEUSドレナージを押している論文になります。
(アブストラクトは踏み込んだところまで書かれていませんでしたので、本文を読んだ私の要約を載せます)

インドでは、胆石の有病率は10%で、その1/10〜1/3に症状が出ます。胆嚢炎を発症した場合の死亡率は1-10%と報告されており、緊急治療を要する症例も少なくありませんが、外科手術が適さない症例もあります。その際にPTGBDと内視鏡治療が選択肢に挙がるが、PTGBDは内視鏡治療に比べ、成功率は同等だが偶発症が増えるとする論文を複数引用しています(腹膜炎、気胸、出血、予定外の入院、チューブ逸脱、急性胆嚢炎再発)。QOLやADL制限に関しては本文では触れられていませんでしたが、その点も見過ごせないポイントですね。そのため内視鏡治療を推されていますが、そうすると経乳頭的胆嚢ステント留置術(ETGBS)とEUS下胆嚢ドレナージ術(EUS-GBD)のどちらかを選ぶことになります。

<ETGBSとEUS-GBDの結果は、以下のように比較されています>


技術的成功率は、EUSガイド下GBドレナージ群が経乳頭ドレナージ群と比較して高かった(84.2 vs. 97.5%;OR 9.83, 95% CI 0.93-103.86 )。臨床的成功率も、経乳頭的ドレナージ群に比べEUSガイド下GBドレナージ群で高かった(95.0 vs. 76.3%; OR 5.90, 95% CI 1.18-29.41)。
胆嚢炎の再発はEUSドレナージに比べ経乳頭ドレナージで多かった(18.8 vs 2.6%; OR 0.094; 95% CI, 0.011-0.81)。
しかし、抗生物質の使用期間、術後の入院期間、術後の疼痛スコアなどの他のパラメータは両群で同程度であった。経乳頭ステント留置術を受けた患者は、EUSガイド下GBドレナージを受けた患者よりも最終的に手術を受ける可能性が高かった(43.8 vs. 2.6%; OR 0.034, 95% CI 0.004-0.278 )。

ただし、経乳頭群は7Frプラスチックステントを、EUS群は10mmまたは15mmのLAMS(Lumen apposing metal stent)を使用しており、内腔に5倍前後の差があることに留意が必要です。そして日本では、胆嚢炎に対するLAMSの使用は一般診療としては使用できません(使うなら臨床試験を組む必要があります)。つまり、技術的成功率がEUS-GBDが高いことに異論はありませんが、臨床的成功率に関しては、短期的にも長期的にもこの論文の結果はそのまま受け取れないということです。


有害事象は両群で同様に発生した(EUS群17.9% vs 経乳頭群9.4%;OR 3.04;95%CI、0.58-15.78)。

偶発症全体では有意差はありませんでしたが、重篤な偶発症に限れば、経乳頭群では避けられない膵炎が、EUS群では治療が失敗した際の消化管穿孔が危惧されますね。

今後解決すべき疑問点として、「EUSガイド下胆嚢ドレナージにLAMSを使用した研究はいくつかあるが、LAMSの抜去またはプラスチックステントへの交換の理想的な時期などがある」としています。この研究では1年以上LAMSを留置したままにした症例もあるようですが、本邦では胆嚢には使えず、使ったとしても60日以内の抜去がメーカーからの推奨になっています。

本邦の状況を加味した上での結論としては、内視鏡治療に自信が持てる胆膵内視鏡医であれば、手術適応がない急性胆嚢炎は経皮治療よりも内視鏡治療を選択してよく、内視鏡治療はまず経乳頭的に行い、不成功の際にプラスチックステントを用いたEUS-GBDを行うという方針になると思います。EUS-GBDを先行するケースは、悪性腫瘍が胆嚢管や総胆管からの胆嚢管分岐部の辺りを侵している症例だと思います。

ハイライト:

Acute cholecystitis is a potentially life-threatening inflammatory condition of the gall bladder which can be calculous or acalculous in nature. Nearly 10% of the Indian population is estimated to have gallstones, and 1 to 3% of these patients develop symptomatic gallstones. Mortality due to acute cholecystitis is approximately 1 to 10% and the importance of treating it urgently and appropriately. The treatment of choice in AC is early laparoscopic cholecystectomy
Various nonsurgical therapeutic modalities like percutaneous transhepatic cholecystostomy, endoscopic ultrasound-guided GB drainage, or endoscopic transpapillary drainage of GB have been described as effective modalities for GB drainage
Higa JT et al have retrospectively analyzed data of 78 surgically unfit patients who were referred to their center for GB drainage
Technical success was higher in EUS-guided GB drainage group compared with transpapillary group
In patients with stent-related cystic duct obstruction or malignant obstruction or patients who are poor surgical candidates, EUS-guided GB drainage can be considered as first-line treatment option in view of higher technical and clinical success and lower risk of recurrent cholecystitis
More patients had common bile duct stone and less patients had malignancy as an etiology compared with EUS-guided GB drainage.

ちなみに、私の胆嚢ドレナージ術へのイメージは以下のような感じです。

今月の論文紹介,医療

Posted by ガイドワイヤー部長