肝細胞癌 〜放射線治療〜

エビデンス的にはまだ高いものがないのですが、困った時の一手として有用なケースがあります。


放射線治療は、有効とする報告は多いのですが、ほとんどが第Ⅱ相試験までで、後ろ向きのものが多いんです。第Ⅲ相のRCTはないとされています。「効きそう」という後ろ向き試験をたくさん集めても、「効く」とは判断できないのでガイドラインには記載がないんです。しかし放射線治療は現在も進化を続けており、状況によっては選択してもよいと記載しているガイドラインもあります。

放射線照射範囲のイメージ図。
真ん中のSBRT(Stereotactical Body Radio Therapy)と記載してあるものが最近の照射方法で、以前のConventionalな方法より、腫瘍へはより強く、正常肝へは狭く照射できるようになっています。また左は陽子線の照射範囲のイメージです。正常肝への照射はかなり抑えられていますね。しかし陽子線とSBRTで、明確な治療成績の差はないとされています。ちなみにSBRTの照射は4日ほどで終わります。

<具体的な適応としては>

IVC浸潤、門脈浸潤、骨転移への奏功率は6-7割と報告されており、有効性が高そうです。
門脈腫瘍栓が消えれば、TACEができるようになる症例もありますし。下大静脈症候群や病的骨折の治療は、QOLにとって重要です。


またRFAの苦手な場所(体表から深くエコーが減衰するような場所、IVCや門脈や胆管に近接して焼灼できない場所)でも、放射線は照射できます。RFAと放射線治療が同等の成績を出した報告もあります(上述したように、質の高い研究ではないです)。RFAはできないけど、ミラノ基準に収まるような局所だけなんだという場合に試みてもいいかもしれません。

また、局所療法や分子標的薬をやり尽くしてもまだ局所進行で患者さんも元気な場合に、試みてもよさそうです。
分子標的薬と併用すると有効性が高まるとする報告もあります(同時併用すると消化管障害が増えるとする報告があるので、放射線照射をする前後1−2週間は休薬した方がいいと思いますが)。

このようにメリットもありますが、次のような弱点もあります。
肝細胞癌本体への根治照射をする場合は、Child-Pugh7点までにしておかないと、照射後の放射線関連肝障害(RILD)が増加します。線量や照射範囲を狭くすることでそのリスクは減らせますが、それでは有効性も落ちますのであまり意味はなさそうです。分子標的薬単独でも肝機能は低下するため、放射線根治照射を追加する際にはRILDの対策が必要です。
その対策は、上に載せた図に記載してありますSBRTという照射方法が有効と考えられます。SBRTを簡単に説明すれば、腫瘍の形状に合わせた精密照射です。このため正常肝への照射が減ります。

ここまでをいったんまとめて、その次にSBRTをもう少し説明し、それが根治的に有効であった症例を紹介します。

肝細胞癌に対する放射線治療

肝細胞癌に放射線照射をする前置きとして、肝細胞癌と正常肝の放射線治療への感受性は知っていますでしょうか。
ずばり、「どちらもかなり感受性が高い」です。

肝細胞癌は、他臓器癌よりも線量を上げることでの抗腫瘍効果が得られやすく、正常肝は、肺よりも放射線感受性が高いとされています。

  1. Park HC, Seong J, Han KH, et al. Dose-response relationship in local radiotherapy for hepatocellular carcinoma. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2002; 54: 150-5  
  2. Pan CC, Kavanagh BD, Dawson LA, et al. Radiation-Associated Liver Injury. Int J Radiat Oncol Biol Phys 2010; 76: S94–100

そのため、腫瘍細胞への線量を増加でき、正常肝への線量を減らせるSBRTは有効性が期待できるのです(実際に有効かはやはり第3相のRCTを待つしかないですが)。

ちなみに、いくらSBRTでも呼吸性変動が大きい標的には精度が落ちます。肝臓はモロにそういう臓器ですね。それを解決する方法が呼吸性変動マネージメント(RMM)です。
RMMには4つの方法があるのですが、基本的な3つの方法は、①呼吸しても動きが小さくなるように外的に圧迫して照射する、②安静呼吸として同じ深さ(であろう)時に断続的に照射する、③患者さんに呼吸を止めてもらって照射する、のです。
①〜③では、長時間呼吸停止や毎回同じ深さの呼吸停止は不可能ですので、誤差が生じやすくなります。

④の方法は、金でできたマーカー(Gold Anchor: GA)を肝細胞癌の周囲に留置して、完全に腫瘍を追尾しながら照射します。
埋め込む手間がありますが、CTガイド下肺生検のような感覚で留置でき、侵襲的処置にはなりますが患者さんの負担は小さいもので、その後放射線治療へのメリットは十分なものと思います。

では最後に、症例を紹介します。
他の治療に抵抗性でしたが、放射線治療がかなり有効であった症例を2例続けて経験しました。似たような経過だったので1例だけ紹介します。

病歴です。
CTでの経時変化です。
右2つの写真で石灰化のように見えるものは、TACE時に使用したリピオドールの沈着です。腫瘍濃染がその周囲に、リピオドールよりは淡く確認できます。
右から2番目の写真は、その上に提示したCTの経時変化の最後の写真と同じものです。
いちばん右の写真はSBRT後のもので、腫瘍濃染が消失しています。

この症例に限れば、かなり有効であったと思える変化です。

肝細胞癌は、とくに最近は化学療法や移植の発展で予後が長いケースもあり、門脈/IVC浸潤や骨転移はもちろん、根治照射としての放射線治療を活かせる症例があります。