ピュアスタットのEST後出血に対する予防効果

今月の論文紹介,医療

ピュアスタット(self-assembling peptide hydrogel)をご存知でしょうか。
トロンビンのように散布する止血剤ですが、ゲル状で出血部に留まりやすいものです。
これに関して、「ESTによってERCP術中出血を起こした場合、散布しておくと術後出血も予防できる」とした論文が出ました。

遅発性出血のリスクは、ピュアスタット群0.9% vs 予防なし群3.8%でした。リスク差は2.9%です。NNT(number needed to treat)にすると約35。35人を治療すると1人に対して効果があることを意味します。ちなみに重症出血は予防なし群のみで、2例発生したようです。
ピュアスタットを散布することでの偶発症増加はなかったようです。

ピュアスタットは1mlあたり13200円です。この研究では1-3mlが使用されたようです。仮にピュアスタットを1回3万円分使うとすると、約100万円分使うと1人の患者さんの遅発性出血を予防できる計算になります。

遅発性出血で重篤なことが起こりにくいのであれば、あとはコストの問題になります。要は、1人の出血患者さんを治療するのに100万円以上かかるのかという。。

当院では2年分くらいのレトロデータを解析してみると、EST後の遅発性出血で重篤になる症例は稀(全例内視鏡による止血可能で、IVRや手術になった症例はいない)なので、当院ではコストで判断することになると思います。そうしますと、輸血や入院期間の延長によるコストがどれだけ発生するかは医事課に計算してもらわないと分かりませんが、100万円はかからないんじゃないかと思います(止血クリップは1本2000円+輸血RCCは2単位数万円+入院期間の数日延長で数万円)。

また、この論文では、2021年までの症例(ピュアスタットなし)と2022年以降の症例(ピュアスタットあり)で比較をしています。時間的にずれている2群を比較することは、臨床研究として大きな弱点になります(質の高い前向き試験をしたら結論がひっくり返る可能性が十分にあるデザイン)。不連続回帰デザインとして解析すればいいのかもしれませんが。。。

本論文の結果からは、術中に出血した症例にピュアスタットは予防効果があるかもしれないが、本試験からではまだ大々的に使用するほどの現実的メリットに乏しい、と考えております。術中出血の程度にも差がありますので、"けっこう出血したなあ”と感じる症例で使用してみようかなと思います。あとは、元の全身状態が悪く"絶対に出血してほしくない!"という症例ですね。

ピュアスタットはそこまで高額というわけではありませんので、症例を限定しながら使っていきます(実際に月0-3例くらいは使っている感覚です)。

今月の論文紹介,医療

Posted by ガイドワイヤー部長