病理学的完全奏功(pCR)後の予後
膵臓癌に対する放射線療法について調べているときに、興味の持てる論文を見つけました!2021年に出版されたこの論文は、「術前化学療法を受けてから切除され、その病理判定にて完全奏功が確認された人の予後」について調べています。
病理学的完全奏功(pathological Complete Response: pCR)とは、手術により摘出した組織の病理にてがん細胞が完全に消失したことが確かめられたことをいいます。しかしpCRには多くの判定基準が存在しており、その定義は国際的に統一されていません。論文によっては、切除した検体の5%未満を病理学的完全奏功としているものもありました。
で、この論文では、術前の放射線療法は78.8%の症例に施行されていました。著者らの名前からすると中国の方のようですが、日本の感覚からすると放射線の併用がちょっと多いですね。で、この論文の結果ですが、病理学的に完全奏功が得られていたにも関わらず、29名(33.3%)の患者が、中央値22.4(範囲2-194)ヵ月の追跡期間中に疾患再発を起こしました。生存期間中央値は105ヶ月(およそ9年)、1年/3年/5年の全生存率は、それぞれ93.6%/70.3%/70.3%でした。
本文も読んだのですが、システマティックレビューの論文で、再発形式の記述はありませんでした。原発巣がpCRなのに再発する1つの仮説としては、膵癌のほとんどの患者で診断時に全身性であることが考察されていました。切除標本中の癌細胞は術前治療ですべて死滅しているにもかかわらず、微小転移巣が全身循環中にまだ存在し、それがその後の再発の原因となっている可能性があるとしていました。
ただでさえ再発率が高い膵臓癌ですが、術前化学療法がpCRですら3割再発するというのはインパクトがありますね。最近は「脈管浸潤がないstage Ⅰの膵癌だけが直接手術で、少しでも脈管浸潤がありそうなら術前化学療法を推奨する」流れになりつつあります。化学療法が有効でも再発率が高いというこの論文の結果は、その流れを後押しするようなものだと感じました。
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