肝細胞癌 〜治療の全体像〜
一般病院だと、胆膵内科医がHCCを診療することも多いですよね。
治療方針決定時や患者説明時に迷うことを含めて記載してみます。
これはよくみる治療方針決定のアルゴリズムですね。
肝細胞癌(HCC)を受け持ったら、基本的にはこれに照らし合わせればいいです。
また欧米のガイドラインからの推奨も、参考に載せておきます。下記のBCLCステージングに基づく治療法推奨ですね。
(引用:栗原ら. 肝癌治療における肝切除に関する現状と課題. 肝臓 2023; 1-11)
日本のガイドラインと比べると、欧米では肝切除とTACEの適応が狭いです。肝切除は、欧米では2cm1個、日本では3cm3個以内ですね。TACEの適応は、欧米では脈管浸潤がない症例、日本では脈管浸潤があっても遠隔転移がなければTACEの適応。
高度の門脈浸潤では、肝切除後の生存中央は18.7ヶ月
高度の静脈浸潤では、肝切除後の生存中央は1.48ヶ月!
全身化学療法(ATZ/Bev併用)の生存中央が19.2ヶ月
これらのことから、少なくとも静脈浸潤が明確な場合は肝切除は控えた方がいいかもしれません。
(引用:栗原ら. 肝癌治療における肝切除に関する現状と課題. 肝臓 2023; 1-11。Galleら、Lancet oncorol 2021。)
<それぞれの治療のもう少し細かい話>
外科手術は幕内基準が参考にされることです。基本的にはBil≦1.0、ICG停滞率<20%でないと系統的な手術なできません。
RFAでは、3cm以上で効果が落ち、4cm以上ではかなり厳しいようです。さらに、IVC、門脈、胆管に近接している場合は、ヒートシンク効果(脈管による冷却効果)によって焼灼できません。
TACEでは、up-to-7ルールといって、「腫瘍個数が7個まで、または腫瘍径を足していって7cm以上となる場合」はTACEを行なっても不応例に該当するケースが多くなるようです。TACEで粘りすぎると肝機能が低下する可能性があり、分子標的薬は肝機能が保たれたChild-Pugh Aの段階で使用することで有効性が高まると報告されています。up-to-7に該当する場合には、TACE不応例になることを予測し、早めに分子標的薬に移行するのが最近の流れなようです。
その分子標的薬は、例えばソラフェニブ単体では、余命を2-3ヶ月延長できる程度の効果なため、無理をしてQOLを下げてまでfull doseを継続するかは微妙です。そのため高齢者では、まずは半量から開始して忍容性を確認後に、1ヶ月後程度で全量にdose upすることが多いです。私が高齢者を担当することが多いことも、そのようにする理由です。
では、ここでTACEに関して補足していきます。2022年までの数年で、TACE不応となりやすい症例の察知(Up-to-7ルール)や分子標的薬はChilid-pugh(A)で有効性が高く、TACE後では肝機能が落ちた状態で分子標的薬を導入することになるなどの理由から、TACEへの逆風がありました。しかし2023年のIVR学会誌に、TACEを見直す総説が掲載されました。
TACE+分子標的薬同時併用を、TACE単独または分子標的薬単独と比較してOSが伸びるという報告を紹介しています。またTACE不応後にレンバチニブを投与して、レンバチニブが不応や不耐となった後に再TACEをすると有効性が復活する症例があることも紹介していました。TACE+分子標的薬同時併用の場合、TACEの2−3日前に分子標的薬を中止し、1−2週間後に肝機能が平常時に戻ってから再開する施設が多いようです。
TACEについては、別ページでまとめを作っておきます(HCCに対するTACEの新しい知見2023)。
また分子標的薬についての補足ですが、最近では免疫チェックポイント阻害薬も全身化学療法として使用可能になり、種類が多くて使う順番に迷いませんか?
分子標的薬:ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、アテゾリズマブ+ベバシズマブ
免疫チェックポイント阻害薬:ラムシルマブ、カボサンチニブ
順番については、2021年の肝臓学会教育講演で勉強したことを別記事にしておきます(HCCに対する分子標的薬の使用順序)。
<HCCについて、私の患者さんへの説明は、>
自分の状況と今後をイメージをしやすいように、疫学(数字)を提示するようにしています。具体的には、
●罹患率:世界では6番目の癌です。
●外科手術可能例:10-30%で、多くの方は進行度や肝予備能から手術ができません。
●治療方針:上記のガイドラインアルゴリズムに照らし合わせて決定します。
●初回治療後(再発の話):手術では50%、RFAでは80%、TACEでも同様の再発率があり、繰り返し治療が必要になる症例が多くなっています。
●予後の話:ここは難しく、進行度だけでなく肝予備能にも左右されます。多くの症例は手術不可能ですが、そのような症例でもTACEや全身化学療法を用いることで、2年前後の余命は見込めます。
、といった感じです。
さて、癌の治療には局所療法と全身療法があり、局所療法の代表が外科手術、全身療法の代表が化学療法です。
肝細胞癌では、局所療法としてRFAや移植などのオプションが発達していますが、放射線療法の記載がほとんど出てきません。これは海外のガイドラインでもほぼ同様です。
理由は、有効とする報告は多いのですが、ほとんどが第Ⅱ相試験までで、後ろ向きのものが多いんです。しかし放射線治療は現在も進化を続けており、状況によっては選択してもよいと記載しているガイドラインもあります。
現時点でよくやる具体的な適応としては、IVC浸潤、門脈浸潤、骨転移ではないでしょうか。それぞれ奏功率は6-7割と報告されております。門脈腫瘍栓が消えれば、TACEができるようになる症例もありますし。下大静脈症候群や病的骨折の治療は、QOLにとって重要です。
根治的放射線治療の詳細については、他の治療をやり尽くして効果が薄かった症例に対して著効した2例を続けて経験しましたので、それと合わせて別記事にしておきます(HCCに対する根治的放射線治療)。
肝細胞癌は、治療選択肢が多く、そのため適応基準や除外基準も増えてしまうので大変ですが、頑張って勉強して診療していきます。
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