膵臓癌の化学療法2024
nal-IRIやオラパリブなどが話題ですが、既存薬を含めてどのような順序で使いますか。とくにセカンドラインが問題です。
使用できるレジュメは、
mFFX :Oxaliplatin+Irinotecan(IRI)+5FU+Leucovorin(LV) =FOLFIRINOX
GnP :Gemcitabine+nabPaclitaxel
NAPOLI:nanoliposomalIrinotecan(nal-IRI)+5FU+Leucovorin(LV)
GEM :Gemcitabine
S-1 :TS-1
オラパリブ
ペムブロリズマブ
エヌトレクチニブ
が代表的なものです。これらの適応と、適応があるレジュメを投与する順番が重要です。
NAPOLIは、mFFXからOxaliplatinを抜いたようなレジュメですね。IRIはnal-IRIとして改造されてますし個々の薬剤の容量も少ないんですが、イメージし易いようにしておくことは、患者さんへの日常的な説明のためにも大事だと感じています。
主な薬剤の報告がなされた時期は、以下になります。
胆道癌に比べれば多いですね。
まずは主なレジュメの性能ですが、
GnPとmFFXは、奏功率3割程度(SDまで含めた病勢コントロール率:DCTは7-8割)。stageによりますが、余命は1-2年。副作用は、grade3以上の好中球減少はmFFXが4割、GnPが2割で、末梢神経障害はそれが逆転する。その他食思不振、吐き気、下腿浮腫、皮疹などがちらほら。
(細かいデータを覚えておくこともありますが、そういったことが増えると忘れ易いので、大まかなイメージを持っておくと日常診療がやりやすいと感じています。)
S-1やGEM単剤は、DCT3割程度、余命6ヶ月程度。倦怠感や食指不振などによる忍容性の問題は、GEMの方が軽い印象です。実際、内服のS-1の方が消化器毒性は出易いという報告はありますね。
NAPOLIですが、このエビデンスはセカンドラインとしてのものです。5FU/LVと比較して2ヶ月ほど全生存期間を伸ばしました。ファーストラインとしてのエビデンスがないので難しいのですが、5FUと同じフッ化ピリミジン系であるS-1とmFFXの間くらいの効果とイメージしています。しかしGnPのセカンドラインとして使用した場合、mFFXとNAPOLIで優劣がつけ難いデータがあるので、ファーストラインとしてのエビデンスであるGnPやmFFXと、セカンドラインのエビデンスであるNAPOLIを比較するのは難しいですね。ただし、NAPOLIの治験をやった先生の講演会を拝聴させて頂くと、「縮小効果は強くないが、SDが長く続く(long-SD)」を特徴として感じているとのことでした。
ゲノム医療の治療薬ですが、エビデンスに関してはオラパリブのPOLO試験が有名ですね。PFSをプラセボの3.8ヶ月から7.4ヶ月に延長させました。OSは差がなかったようです。しかしその次のレジュメを使うまでの期間延長の効果があったようで、全ての選択肢を使用できるような症例ではOSも改善するかもしれないですね。
NAPOLIには少し留意する点があって、"mFFXなどのIRIベースの治療歴がある場合/または65-75歳以上"では、治療効果が落ちる可能性が報告されています。
まずはIRI治療歴がある場合の報告から。
(Mercade TM, et al. Liposomal Irinotecan + 5-FU/LV in Metastatic Pancreatic Cancer. Pancreas 2020)(C YOO, et al. Real-world efficacy and safety of liposomal irinotecan plus fluorouracil/leucovorin in patients with metastatic pancreatic adenocarcinoma: a study by the Korean Cancer Study Group. Therapeutic Advances in Medical Oncology 2019)
しかしこの試験では、副作用に関しては、若年者と高齢者でほぼ同等であると報告されています。
治験をやった先生の講演では、「ピークは強くない副作用が長めに続く」ということでした。消化器症状も通常の2-4日のピークではなく、5-7日にピークが来る。また骨髄抑制のnadirも遅いようです。
そのため減量を要する場合も、骨髄抑制では減量しますが、遷延する消化器症状では減量ではなく期間延長(2週間→3週間)が有効な場合もあるとのことでした。
UGT1A1の変異症例(ヘテロでもホモでも)でも使用可能なようです。ただし、減量して投与を開始し、忍容性があれば2コース目から増量を考えます。
こういったピークが強くない特性のため、75歳以上の高齢者でも忍容性があると考えられているようです。
NAPOLIの話が多くなりましたが、ここまでが個々の薬剤のイメージです。
続いては、上記レジュメを使用する順番ですが、
私は、85歳以上の超高齢者でも強い希望がある場合は、GEM単剤でやってみることがあります。BSCを希望する患者さんが多い層ですが。
では、全力を尽くすような切除不能/再発の症例、conversion手術を目指す症例に対してはどうでしょうか。
忍容性があるならファーストラインはGnPです。
最近、奔放でGnPとFOLFIRINOXを比較した第Ⅲ相試験が実施され、GnPが良好な成績だったと報告されています。
これまでも、本邦では、全年齢層におけるファーストラインの約50%はGnPだったので、治療戦略に大きな変更はないと思います。
悩むのは、化学療法開始時にBRCAを測定し陽性になった症例です。POLO試験に沿ったスケジュール"FOLFILINOX(プラチナを含めたレジュメ)を少なくとも16週間使用し、SDを保っていればオラパリブ使用"に変更するかどうかですよね。
私の2024年時点での結論は、GnP継続です。GnP>FOLFILINOXが検証されたため、GnPからFOLFILINOXに変更することは適当ではないと考えているからです。
確かにPOLO試験のレジュメ(FOLFILINOX→オラパリブ)を先に使えば、GnPを温存できてセカンドライン以降に使用できるという考え方はあります。治療選択肢が限られた膵癌において、それは魅力的です。しかしGnPはセカンドラインとしての有効性を検証されたレジュメではありません。またセカンドラインとしてはNAPOLIレジュメがあり、それはFOLFILINOXと類似したレジュメです。NAPOLIは、先にFOLFILINOXを使用していた場合は有効性が減弱する可能性が報告されていますので、極端なことを言えばFOLFILINOXまたはNAPOLIで1つ、GnPで1つです。そのためFOLFILINOX→オラパリブ→FOLFILINOX→GnPではなく、GnP→FOLFILINOX→オラパリブ→FOLFILINOXという流れの方がいいように思います。
(FOLFILINOXからオラパリブの変更は有効性が残っている中での変更なので、オラパリブ不応となった後に再度FOLFILINOXを使うことを検討する)
ところで海外では、FOLFILINOXのIRIをnal-IRIに変更したNALIRINOXがGnPよりも有効であるという報告がされました(ASCO2023)。今後の数年で、日本でもさらなるファーストラインの変更があるかもしれません。
ではセカンドラインはどうでしょうか。
セカンドラインとしてのNAPOLIのエビデンスは、あくまで5FU/LVに対しての優越性です。5FUなんてほぼS-1です。
しかしmFFXのセカンドラインとしてのエビデンスもまた乏しいです。
これは、セカンドラインとしてのmFFXの報告ですが、Partial Response(PR)が10.6%、SDまで含めると56.8%だったようです。しかしOSは7.0ヶ月で、NAPOLIは上述したように6.7ヶ月ですから、同等のように見えます(患者背景も時代背景も変わる可能性があるので、こういう違う試験での比較はあくまでもイメージとしてですが)。
(Masashi Sawada, et al. Modified FOLFIRINOX as a second-line therapy following gemcitabine plus nab- paclitaxel therapy in metastatic pancreatic cancer. BMC cancer 2020)
直接比較した試験は、レトロスペクティブですがあります。(HS Park, et al. Liposomal irinotecan plus fluorouracil/leucovorin versus FOLFIRINOX as the second-line chemotherapy for patients with metastatic pancreatic cancer: a multicenter retrospective study of the Korean Cancer Study Group (KCSG). ESMO open 2021)
mFFXとNAPOLIで差はなかったようですが、サブグループ解析では、
・70歳未満ではmFFXがNAPOLIよりもOSで優れ(9.8ヶ月 vs 6.6ヶ月)
・70歳以上ではmFFXがNAPOLIよりもOSでもPFSでも劣っていた(9.5ヶ月 vs 10.4ヶ月:OS)
有害事象に関しては、好中球減少と末梢神経障害はmFFXで多かったのですが、その他の副作用は差がなかったようです。
しかし、1コース目から減量はmFFXがNAPOLIより多かったようです(78.5% vs 33.7%)。
まだ遺伝子検査からの治療薬の話が少し残っていますが、ここまでの結果ではどのような順番での投与がいいと思うでしょうか。
私は、忍容性の問題も含めて、GnP→NAPOLIのラインにしようと思っています。
余談ですが、サードラインとして、mFFXからIRIを抜いたFOLFOXを使うという施設もあるようです(NAPOLIで使ったIRIはサードラインで使えないため)。そこは残った薬剤に望みを掛けるというだけで、エビデンスはありません。
では最後に遺伝子変異からの治療薬ですが、
代表的なものはMSI-highに対するぺムブロリズマブ(キイトルーダ)とBRCA変異に対するオラパリブ(リムパーザ)ですね。
しかしどちらの変異も日本人には2-3%しかないようです。
あとはNTRK融合遺伝子があればエヌトレクチニブ(ロズリートレク)がありますね。
オラパリブ(リムパーザ)の使い方は少し特殊で、BRCA変異がある場合はプラチナ製剤の有効性が高いようです。オラパリブ(リムパーザ)はその後の維持療法として使用できます(維持療法とは、SDをそのまま保つことを目的としたものです)。具体的には、mFFXを少なくとも16週間使用し、SDを保っていれば使用できます。
以上から、私は現状では、
BRCA陰性例では"GnP→nal-IRI"を考えます。
BRCA陽性例では"GnP→mFFX→オラパリブ→mFFXまたはNAPOLI"を考えています。
サードライン以降では、ゲノムプロファイリング検査結果を優先しますが、ゲノムプロファイリング検査で有効な変異遺伝子が見つからなかった場合、S-1を考えます。FOLFIRINOXには5FUが含まれ、S-1と同じフッ化ピリミジンです。そのため作用機序としてはS-1の有効性は高くは望めませんが、しかしS-1は血中濃度が高く維持されるようにギメラシルという薬剤が混合されています。しかも単剤での使用ですので高容量を投与しても患者さんは耐えられるかもしれません。
まとめると以下の感じです。
ここからは余談ですが、遺伝子パネル検査の話。
遺伝子パネル検査は標準治療に不応となった患者さんが保険適応です。
治療薬は企業から無償提供になりますが、検査費用の自己負担分は57万円です。
検査を受けた全体の話ですが、3割程度の人が治療薬が見つかり、2割程度の人が実際に治療薬を始められるようです。
(膵癌では、上述した通り遺伝子変異が見つかる可能性は低いですが。)
そこにたどり着くまでの流れですが、けっこう長いです。
標準治療をやり尽くした患者さんに1-2ヶ月待機できる体力があるかは問題です。
検査しても患者説明まで行かないと48000点の保険請求ができずに病院持ち出しになります。
この必要な待機期間の問題から、最低1ヶ月は待機可能な患者さんが必要条件になります。
実際に使われる治療薬のエビデンスレベルは、下記のC,Dが多くなります。
エビデンスレベルは低いものが多いのですが、それでも使用した方が予後に寄与すると結論した論文も2020年に出版されています。
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