さあ、臨床研究を始めよう(後半

2022年10月20日

医学統計を学ぶのは、臨床医がやるレベルであっても長距離走です。しかし歩いたっていいんです。止まったって、道に迷ったっていいんです。しかしゆっくりと進む、その手助けが少しでもできればいいと思います。

少しでも進みやすいように。

では今回は、なぜ臨床研究をやるのか、とデザインの基本的なことの紹介です。

個人の経験則ではまったく正確性がありません。昔の敗血症へのステロイドパルスのように、無効なことでもそれをやって患者さんが改善すれば有効なことだと勘違いをしてしまいます。それを科学的に、真に有効なのか無効なのかを判断できるようになるためです。
(科学的とは、別の誰かが検証可能とということです)
こういう時こそ確率・統計学が大切になってきます。いわば確率思考ですね。
これは期待値を計算すれば選択は言わずもがなで紫を選択すべきなんですよね。
1回だけだったら、2500円の差でしょうもないように感じるかもしれないですが、
10回、100回、1000回と回数が増えると差が如実になってきます。
このような条件にもし遭遇すればどうしますか?
年齢、肝腎機能、施設規模などなど。
この条件こそが医学でいう患者背景となります。

その研究がどういうデザイン・対象者のために組まれているのかが、自分の患者に適応できるのかにとって、または自分が研究する段階でどのような患者に適応できるアウトカムを出したいのかにとってすごく大事!

繰り返しになりますが、個人の経験則ではまったく正確性がありません。昔の敗血症へのステロイドパルスがいい例です。無効なことでもそれをやって患者さんが改善すれば、抗菌薬などの別の治療が有効だったとか自然免疫力で治ったなどというケースでも、ステロイドパルスが有効なことだと勘違いをしてしまいます。それを科学的に、真に有効なのか無効なのかを判断できるようになるために、医療統計を学ぶのです(科学的とは、別の誰かが検証可能とということです)

次は、研究の型の基本的なことです。デザインと呼ばれることもありますね。

まずはこの質問が正しいかを考えてみてください:

どちらも不正解です。なぜならコントロール群(比較群)が設定されていないからです。
これは風邪を想定したケースですが、自然に3日以内に治ってしまった可能性がありますね。もしくは全員が20代で90代だったら症状消失までに5日かかるかもしれません。もしくは神経質な患者さんの集団だったら症状を1ヶ月くらい訴えるかもしれません。それはコントロール群(C)を設定しない限りは、アウトカム「その新薬は有効である」に新薬が影響したのか、患者背景が影響したのか、治療中に発生した因子が影響したのか分からないんですね。

さあ、臨床研究をはじめよう(前半でお話したように、私たちがリサーチクエスション(RQ)を思いついたら、まずPICOを作るのでした。はい、C(コントロール群)が必ず出てきます。このように、比較群を作り、新薬という条件以外は可能な限り同じにし、違う点は新薬を入れるかどうかのみ!として新薬の有効性を研究をするのです。

理想の比較はタイムマシンで戻った、新薬投与前の自分です。
それができないので、ランダム割り付けをして擬似的に背景を揃えるのです。
ランダム化が難しい場合は、可能な限り背景が揃ったコントロール群を同時に用意、
それすら難しければ現在の新薬群と、過去の新薬がないコントロール群と比較します。
それすら無理なら誰が判断しても同じ結論だよねという暗黙のコントロール群というものもあります。

同時コントロール以上が基本だと思います。

大事なのは、新薬群とコントロール群で、"新薬を使う"という条件以外を同じにすることでした。
その正確性から研究の型の信憑性が決まります。

まさにコントロール群がないものは下に来ていますね。
上図の研究の大変さの矢印からは、Expert opinionは研究ではないことと、システマティックレビューは複数の他人の研究をまとめるという作業で、苦労の方向性違うので除いています。
Expert Opinionが底辺というのは、エビデンスとなる研究がなく経験則オンリーで判断する場合ということです。
余談+自論ですが、エビデンスを使いこなすにはエクスペリエンスの積み重ねが必須だと思います。SLEのガイドラインを全部読んだとて、SLEの診療をスムーズにできると思いますか?診断、効果判定、患者さんのさまざまな訴えからSLEに関連したものを抜き出す判断力、それを複数の患者さんを見ながら正確に行うことなどできません。エビデンスとエクスペリエンスを互いに積み重ね続けることで、正確で円滑な日常診療になります。

さてここで、前向きと後ろ向き、コホートとケースコントロール、横断と縦断について説明しておきます。
まずは下のイラストを見てください。これはどの型か分かりますか?

後ろ向きコホートの図です。
まず後ろ向きとは、「過去起点」と理解した方がいいです。研究に組み入れた症例が過去のものなら、それは後ろ向き研究なのです。現在から未来までの症例まで含んで症例を集め続けている場合でも、過去の症例が入っていたら後ろ向きです。
逆に前向きとは、全ての症例が現在以降のものである場合です。前向きでは、これから集める症例なのでバイアスなどの調整ができる余地があり、そのため事が済んでしまっている症例が含まれる後ろ向き研究よりもエビデンスレベルが高いのです。

なので前向きコホートでは、下のようなイラストになります。

ではコホートかケースコントロールかの違いは分かりますか?
要因から結果の有無を調べるのか、結果から要因の有無を調べるのかです。
それは次のように言い換えることもできます:「要因で群を分けてその結果の有意差を求めるのか、アウトカムによって群を分けてその要因の有意差を求めるのか。」
イラストにすると下のようになります。

具体例としては、大腸ポリープEMRによる出血の有り群と無し群に分けて、その要因(抗血小板薬の有無、DOACの有無、血小板数、年齢、性別、心不全などの動脈硬化性疾患)の有意差を求めていくというようなものです。
上の図は「後ろ向きケースコントロール研究」でイメージしやすいものですが、「前向きケースコントロール研究」というものはイメージできますか?それは例えば、「2年間でやる研究計画書をまず作り、入院中に心筋梗塞が発生したらそれと同数の発生していない人を選び、その都度アスピリンの暴露を持っているかを調べていく。」というものです。

次は縦断と横断です。

時間的な軸がなくなって、ある時点のみで要因とアウトカムを見るような研究です。
説明の便宜上で要因とアウトカムと書きましたが、実はどちらが先かを見ていないのでどちらが要因でどちらがアウトカムか判別できません。

具体例としては、仮の要因として「高血圧の患者さんでCa(上図のA群)ブロッカー群とARB群(上図のB群)」を設定します。仮のアウトカムとして「収縮期血圧が160以上か以下か」を設定したとします。しかしこれ横断研究だと、Caブロッカー群とARB群のどちらに160以上の人が多いかは分かりますが、薬が効かなくて160以上なのか、160以上だから主治医がより効きそうな薬に変更したのか分からないのです(要因とアウトカムを入れ替えても話が成り立つ)。このように横断研究では、現状の分布は分かりますが、要因とアウトカムが判別できないのですね。

ちなみに、私たちがよくやる研究の型は、後ろ向きコホートです。その研究結果としてのアウトカムがある程度信用できるレベルで、その研究をある程度は1人でできるからです。
ではケースコントロール研究はどういう時にやるかというと、アウトカムが稀な場合ですね。例えばポリペク出血率0.01%のスネアAがあるとして、コホートのように例えば1年間のポリペク全例を集めて、スネアA群とスネアB群を比較して出血率の違いを調べるとします。1年間でポリペクは500例やっているとして、出血なんて1例も出ないかもしれないです。これでは比較になりません。だから出血した人をある程度の人数集めておいて、出血していない群は恣意的に(こちらの都合で)設定するのです。
後ろ向き研究の中でも、コホートとは違いある期間の全例ではないため、ケースコントロールではさらに恣意的な要素が入ってしまいます。私たちが独力レベルでできる臨床研究をやるとき、できればコホートを選ぶ理由ですね。

では今回やったことが、臨床研究のどこに当たるのかを俯瞰してみましょう。

この基本設計図における、

5番のところをやりました。

どうでしたか?成長するには、初歩は勉強した上で実践するしかないです。SLEのガイドラインを読んだだけではSLEの診療をスムーズに行えないのと同じです。さあ、臨床研究を始めましょう。

2022年10月20日

Posted by ガイドワイヤー部長