IVR専門医試験対策 2023
IVR専門医試験対策
私は胆膵を専門とし、肝臓をサブスペシャリティとしております。そのため肝臓専門医を取得しており、そこから派生して腹部を中心としたIVRの研修も週1で行っています。その研鑽を形にしたいと思い、先日IVR専門医試験を受験しました。
IVRが専門医部会に入りその受験資格が変化し、受験の門戸が狭くなります(IVR学会の専門医ページ)。そのため需要は少なくなりそうですが、WEBで調べてもIVR専門医試験の対策はほとんど出てこないんですよね。noteというサイトに投稿された記事くらいです(https://note.com/ivr_exam)。しかしこの記事が大事です。IVR学会は過去問を毎年公表しているのですが、解答がないです。このサイトでは、IVR医個人が作成したものではありますが、色々調べての解答を載せてくれています。個人での作成ですので、一部間違っているかもしれないと思う解答もありますが、非常に有難いです。また口頭試問についても少し触れています。
大学病院やIVRが盛んな病院なら試験対策が代々受け継がれているのでしょうが、指導医と2人でやっている私のような環境では、試験情報はゼロからのスタートです。そのような状況で受験される方のために、私がやったことを残しておきます。
まずは手元に用意するもの
①先ほどのnoteのページから、解答を10年分ほど買いましょう。②過去問自体はIVR学会のホームページからダウンロードしてください。プリントアウトをお勧めします。解答は、当然ですが予備校などが執筆する予想問題集などに比べるとあっさりしたものになっています。また一部には解答に誤りがあるかもと思うところもあります。そのため書き込むこむためには紙ベースの方がやりやすいかと思います。
③“IVRのすべて"という参考書を買いましょう。現時点でIVR全般をまとめた最も新しい本だと思います。
解答で腑に落ちないところや、頻出する分野は複数回目を通します。
ちなみに私は上の写真のように、プリントアウトした解答に、対応する"IVRのすべて"のページ番号を付記するようにしました。
用意するものはこの①ー③だけです。
勉強開始から合否発表まで
<私の勉強の歩み>
私は2021年に受験しようとしてその8月に過去問をやり始めましたが、受験資格を満たしていないことに気づき過去問6年分を1回解いて終わりました。この際は、消化器内科医である私はIVRへの知識が少なく、勉強の進捗が本当にゆっくりでした。ゆっくりですがきちんと調べながらやっていたので、この際の解答への書き込みが翌年以降に活きることとなりました。
2022年は8月に勉強を再開し、受験も応募をしましたが書類選考で落ちました。理由は、業績として提出したものに"IVRというよりは内視鏡寄り"のものが多かったためです(5つ必要な学会または論文業績のうち、3つが不適格でした)。10月には不適格の連絡が来ましたので、この年は過去問は2回ほど復習したところで勉強を中断しました(2021年の過去問を勉強に追加)。去年の記憶は薄れていましたが、前年に疑問点を調べてメモしていたので勉強はやりやすかったです。1回目は1日5問、2回目は1日10問というペースでした。業績集めですが、私にはIVRの同僚がいないため、1人で筆頭として学会発表や論文の業績を積むことになり、自分の専門領域の臨床や研究と並行していたのでちょっぴりきつかったです笑
2023年の夏になり、業績を規定数集められたため(前年認められた業績2つに、英語論文2つと学会発表1つを追加)、8月後半から勉強を再開しました(2022年の過去問を勉強に追加)。この年は8年分の過去問を3回ほど復習し、2回以上間違えたところだけ試験直前に再度復習しました。試験まで2日ほど余ったため、最後に口頭試問の対策をしました。口頭試問の内容は、上述のnoteの投稿に2022年のものだけ紹介があり、それを購入しました。2020年はコロナの影響で口頭試問がなく、記述式試験が代用された年でした。そこに出題されたテーマがnoteの投稿に無料で紹介されていました。この2022と2020のテーマのところだけ、"IVRのすべて"を読み直しました。この対策をする中で、口頭試問がだいたいどんなやりとりで進むのかを知れたのもよかったと思います。
<試験当日>
朝8時から受付なので早いです。私は電車で1時間の距離だったので、5時半に起きて電車で行きました。
口頭試問があるので服装に迷いましたが、セミフォーマルな服装(ワイシャツとダーク系チノパン)で行きました。試験会場では、カジュアルな服装の方も少数いらっしゃいましたが、医師になってから最短でIVR専門医試験を受けていそうな若い先生達はスーツが多かったです。
試験は8時半から80分で、今年は例年より問題数がだいぶ多く80問でした。マークシート記入のために10分残しましたが、私の記入終了と試験官の終了合図には1分も差がありませんでした。手応えとしては、75〜80%くらいは正解できたかなあと感じました。ちなみに、今後は100問にするそうです。
口頭試問は、受験番号が若い方はすぐに呼ばれます。私は後半の受験番号でしたので午後でした。2022年は、個室に入るとモニターがありZOOMでの口頭試問だったようですが、今年は試験官2名が個室奥の窓際にいて、手前にモニター1つと椅子が置かれ、試験管の質疑に合わせて画面がスライドしていく形式でした。全5問。症例の病歴を読まされ、全て読んだらこちらが合図をします。すると次のスライドに移ります。CTや透視画像が出され、所見は?と聞かれます。画像全体的な所見なのか、異常所見だけを答えるのか分からずしどろもどろしました。"画像が示している病名を簡潔に答え、それに対して行っている治療を答え、その治療を完遂するために解決しなければならない合併症を答える"という答え方が正解かなと思います。治療を完遂するために解決しなければならない合併症とは、例えば「EVERのエンドリークⅡ型の症例ですが、瘤拡大からⅠa型エンドリークを来たしています」とか、「TACEの症例ですが、vascular lakeが出現しています」とかいうことです。これに答えると、次のスライドに行き、前のスライドの正解(合併症そのものや、それを解決した手段)を示されることが多かったです。そして、これ以外の解決手段は?と質問が続けられることが多かったです。あとで2023年の口頭試問を紹介しますが、自分で経験したことがある疾患は5問中2問だけでした。5問中3問はなんとか答え、5問中2問は一部間違えつつも回答しました。試験官はそんなに厳しい印象はありませんでした。
<合格発表>
試験は日曜日ですが、5日後の金曜日の午前中にはIVR学会のWEBサイトで発表されました。
筆記試験では受験番号は68まででしたが、発表では83番までありました。前年の筆記試験のみ合格/口頭試問のみ合格の方がおられたのだと思います。合格率は、noteでも記載されていましたが8割前半かと思います。相対評価なのか絶対評価なのかは不明です。
2023年の口頭試問
では、2023年の口頭試問のテーマと概要を紹介しますね。2022年と2020年のテーマは、noteの投稿をご覧ください。
以下は試験直後のメモ書き程度のものですが、ご参考までに。
類骨骨腫
画像所見(CT骨条件)は?
どんな治療をしている画像?
その治療は保険適応になっている?
RFA(硬い骨にどうRFA針を挿すか)
子宮癌か卵巣癌に放射線治療数年後の内腸骨動脈と尿管瘻
CT所見は?(腎盂の拡張と腎盂内の血腫、内腸骨動脈と尿管が癒着してそう)。
内腸骨動脈と尿管瘻。治療は?
塞栓物質は何を使う?(たぶんコイルが正解。NBCAが尿管側に漏れたら尿管閉塞してしまうし。)
中央ニ区域切除後のバイローマ
CT所見は?
治療は?
経皮的ドレナージの穿刺経路を、画面上で指でなぞれ。
合併症は?
ドレーン抜去までにどのくらい期間を置く?(穿刺経路の瘻孔が形成されるまでの最低留置期間は?という意図)
エンドリーク
この画像の所見は?(2型エンドリークで瘤の拡大があり、そのせいで1a型エンドリークを合併した症例。)
2型に関与している血管は?(腰動脈)
このエンドリークの治療は?(2型はTAE。1型の方は、IVRの全てに記載されている方法を一通り述べた。)
肝細胞癌
CT所見は?(高吸収は直腸周囲の腹水であり、出血疑い。腫瘍内に動脈瘤のような所見あり。)
血管造影の所見は?(普通の肝動脈造影で、腫瘍血管が豊富。一部に動脈瘤用の所見。)
DEB-TACE後の血管造影所見。造影剤の貯留があり、その診断は?その治療は?
(これ間違えた!バイローマと回答したが、血管造影中に出現した嚢胞構造であり当然バスキュラーレイク!)
今後の長期的な治療方針は?(BCLC-Bの症例なので、アテゾベバとTACEのサンドウィッチ療法と回答した)
2016年から2020年の過去問の集計
私が2016〜2020年までの過去問5年分をテーマごとに集計したものも載せておきます。
慣れていない手技は"IVRのすべて"を読むくらいしか私には思いつきませんでした。しかし600ページも覚えるのは大変だと思いますので、読み込むまたは読むことは捨てて過去問を解くだけにするなど、テーマの優劣を付けるのに役立てて頂ければと思います。
IVR専門医過去問 | |||||||
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017 | 2016 | ||
放射線防護 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 | ||
HIT | 1 | 1 | |||||
ヘパリン | 1 | ||||||
ACT(activated coagulation time) | 1 | ||||||
DOAC | 1 | 1 | |||||
抗凝固 | 1 | ||||||
エンボスフィア | 1 | ||||||
NBCA | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
無水エタノール | 1 | ||||||
塞栓物質 | 1 | 1 | 1 | ||||
造影剤 | 1 | 1 | |||||
造影剤アレルギー | 1 | ||||||
造影剤腎症 | 1 | ||||||
空気塞栓 | 1 | 1 | |||||
塞栓術で脳梗塞を起こす血管 | 1 | ||||||
塞栓術で皮膚障害を起こす血管 | 1 | ||||||
シース挿入の合併症 | 1 | ||||||
大腿のシース挿入 | 1 | ||||||
保険適応 | 1 | 1 | 1 | ||||
バイアバーン | 1 | 1 | 1 | ||||
コスモテックステント | 1 | ||||||
バルーン拡張型ステント | 1 | 1 | |||||
外傷IVR | 1 | 2 | |||||
緩和医療 | 1 | ||||||
腎瘻 | 1 | 1 | |||||
胃瘻 | 1 | 1 | |||||
PTEG | 1 | 1 | |||||
食道ステント | 1 | ||||||
消化管閉塞 | 1 | ||||||
喀血 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
産科危機的出血 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
UAE | 1 | 2 | 2 | 1 | 1 | ||
TACE | 1 | 1 | 1 | 2 | 4 | ||
動注療法 | 1 | ||||||
HCCへの供血路 | 1 | ||||||
門脈圧亢進症 | 2 | ||||||
異所性静脈瘤 | 1 | ||||||
TIPS | 1 | 1 | 1 | ||||
デンバーシャント | 1 | 1 | 1 | ||||
BRTO | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
PSE | 1 | ||||||
門脈圧低下手技 | 1 | ||||||
肝性脳症 | 1 | ||||||
経頸静脈的肝生検 | 1 | 1 | 1 | ||||
肝生検の合併症 | 1 | 1 | |||||
経皮的骨生検 | 1 | ||||||
肺生検 | 1 | 1 | 1 | ||||
腎生検 | 1 | ||||||
PTBD /PTGBD | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | ||
USガイド下生検 | 1 | ||||||
経皮的ドレナージ | 1 | 1 | 2 | 2 | |||
膵NETのASVS | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
海綿静脈洞サンプリング | 1 | 1 | |||||
副腎静脈サンプリング | 2 | 1 | 2 | ||||
原発性アルドステロン症 | 1 | 1 | |||||
SAM | 1 | 1 | |||||
NOMI | 1 | 1 | 1 | ||||
脳AVM | 1 | ||||||
肺AVM | 1 | 1 | |||||
腎AVM | 1 | 1 | 1 | ||||
腎動脈の血管形成術(腎動脈狭窄) | 1 | 2 | |||||
繊維筋性異形成 | 1 | 1 | |||||
腎血管筋脂肪腫 | 1 | ||||||
シャントPTA | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
凍結療法 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
RFA総論 | 1 | 1 | |||||
RFAの偶発症回避 | 1 | ||||||
肺癌RFA | 1 | ||||||
HCC RFA | 2 | 1 | |||||
局所療法の治療範囲判定 | 1 | ||||||
勃起持続症 | 1 | ||||||
恥骨骨折 | 1 | 1 | |||||
骨盤骨折 | 1 | ||||||
大動脈内バルーン遮断 | 1 | ||||||
肝損傷 | 1 | ||||||
病態と血管 | 1 | ||||||
顎動脈の解剖 | 1 | ||||||
外頸動脈の解剖 | 1 | ||||||
内頸動脈の解剖 | 1 | ||||||
総頸動脈の解剖 | 1 | 1 | |||||
鎖骨下動脈の解剖 | 1 | ||||||
胸部大動脈の解剖 | 1 | ||||||
腹腔動脈の解剖(出血血管の同定など) | 1 | ||||||
SMAの解剖(出血血管の同定など) | 1 | 1 | |||||
SMA閉塞 | 1 | ||||||
腎周囲の出血(血管同定) | 1 | ||||||
硬膜動静脈瘻 海綿静脈洞部 その他 | 1 | 1 | 1 | ||||
内頸動脈海綿静脈洞瘻 | 1 | ||||||
上顎癌 | 2 | ||||||
中硬膜動脈の吻合 | 1 | ||||||
Adamkiewicz | 1 | 1 | 1 | ||||
corona mortis(死冠) | 1 | ||||||
前脊髄動脈 | 1 | ||||||
甲状頸動脈 | 1 | ||||||
深腸骨回旋動脈 | 1 | ||||||
TEVER | 1 | 1 | |||||
大動脈解離 | 1 | 1 | |||||
外傷性大動脈損傷 | 1 | ||||||
エンドリーク | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
血管拡張術のステント | 1 | 1 | |||||
TASC分類 | 1 | 2 | 3 | 1 | |||
内頸動脈瘤 | 1 | ||||||
内臓動脈瘤 | 1 | 1 | 1 | 2 | 1 | ||
内腸骨動脈瘤 | 1 | ||||||
膝窩動脈瘤 | 1 | ||||||
CVポート | 1 | 1 | |||||
CV | 1 | 1 | |||||
PICC | 1 | 1 | |||||
リンパ管造影 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
経皮的椎体形成術 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | ||
経皮的骨形成術 | 1 | ||||||
コーンビームCT | 1 | 1 | |||||
薬剤コーティングバルーン | 1 | ||||||
オスラー病 | 2 | 1 | 1 | ||||
SAHの合併症 | 1 | ||||||
脳動脈瘤 | 1 | ||||||
頸動脈狭窄症 | 1 | 1 | 1 | ||||
下肢動脈虚血 | 1 | ||||||
下肢静脈瘤 | 1 | ||||||
静脈奇形(VM) | 2 | 1 | 1 | ||||
Child-pughスコア | 1 | ||||||
DP-CARの術前塞栓 | 1 | ||||||
術前門脈塞栓術 | 1 | 1 | 1 | 1 | |||
WONの改訂アトランタ分類 | 1 | ||||||
膵炎後の出血血管 | 1 | 1 | |||||
下部消化管出血 | 1 | ||||||
脳梗塞血管内治療 | 1 | ||||||
大腰筋膿瘍 | 1 | ||||||
IVCフィルター | 1 | 1 | 1 | ||||
インフォームドコンセント | 1 | ||||||
結節性硬化症 | 1 | ||||||
Ehlers-Danlos症候群 | 1 | ||||||
遺残坐骨動脈 | 1 | ||||||
硬化療法 腎嚢胞 | 1 | ||||||
Leriche症候群 | 1 |
筆記でも口頭試問でもよく出題されるものは、EVER後のエンドリーク、TACE、経皮的胆道ドレナージ、産科危機的出血だと思います。とくにエンドリークとTACEは、"IVRのすべて"の該当ページを何度も読んでおいた方がいいと思います。手技の手順や合併症も覚えると正解できる問題がきっと増えます。
また下肢動脈閉塞に関するTASCⅡ分類もよく出ます。ただ、この分類はかなり覚えにくかったので私の覚え方を紹介しておきます。
<TASCⅡ分類>
A:狭窄
B:片側閉塞
C:両側CIA閉塞
D:両側EIA閉塞または複数領域多発病変(狭窄でも閉塞でもOK)
総腸骨動脈と外腸骨動脈を気にする。内腸骨動脈は下肢の動脈ではないので気にしない。
この覚え方で、全てとは言えませんが過去問はほとんど正解できます。普通に覚えると相当時間を食いますし、複雑なものを覚えてもすぐに忘れてしまいます。あげくに出題されない年もありますから、私は簡易的に覚えて他に時間を回すことにしました。
合格後に思ったこと
私の試験対策は以上になります。IVRはサブスペシャリティの私が、試験情報ゼロから始めて合格した歩みでした。
そして最後に合格後の気持ちですが、「やっとIVR道のスタート地点に立てた」という気持ちです。今後さらに研鑽を積んでいきます。私の指導医に、指導して頂いた成果を示せたことも嬉しいです。また患者さんは、病院のホームページを見ることがよくあります。私のIVR治療を受ける患者さんが、不安にならないような形を提示できるようになったことも嬉しいです。
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