膵臓癌に対する放射線療法
膵臓癌は最も予後が悪い癌の1つです。比較的早期で発見でき外科切除した症例のみが根治を望めると報告されていますが、そのような症例でも再発率は高いです。このようにタチが悪い膵臓癌ですが、放射線が効きにくいことも有名です。しかし、放射線治療または化学放射線治療を考えたくなる症例はいます。
具体的には、「手術はできないし化学療法はほぼやり尽くしたけど、まだ局所進行に留まり転移がない」または「borderlineまたはunresectableだけれども若年だし、何としても再発率を低減した手術をしたい」という症例などです。
今回は放射線治療を考えたくなった際に、どの程度の効果が見込めるのか解説します。
まずは膵癌ガイドライン2022での放射線治療の位置付けから:
・化学放射線療法は、放射線療法単独に対して有効です。
・化学放射線療法は、化学療法単独に対して有効である可能性がある。ただしこの場合の化学療法単独とは、現在の標準であるゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)またはFOLFIRINOX(FFX)ではなく、ゲムシタビン単剤やS-1単剤またはそこにマイトマイシンCを加えたものなど、現在の標準化学療法に勝るとするエビデンスはありません。
・放射線療法を行う場合、重粒子線や陽子線など、標的の線量強度を高め、周辺臓器の線量を減らせる選択をすることが提示されている。しかし他臓器癌よりも圧倒的に転移(CTやPETで検出できない微小転移を含む)が多い膵癌では、化学療法は必要である。
・骨転移や脳転移などの一部の転移では検討。
化学療法が重要な膵癌において、今やGnPやFFXは欠かせません。そのため私が放射線治療をやりたくなる状況としては、GnPやFFXを邪魔しない、またはGnPやFFXができない状況です。つまり以下の2つ:
1
GnPまたはFFXが、既存の化学療法に比べて高い有効性を証明し標準治療となった現在、化学放射線治療を考慮する段階になる頃には、放射線と併用する抗癌剤であるフッ化ピリミジンやゲムシタビンは既に使用され無効になっています。そのため放射線単独の場合の有効性が気になります。
2
または、「borderline resectable(BR)またはunresectable(UR)だけれども若年だし、何としても再発率を低減した手術をしたい症例」などでは、GnPやFFXと比較した化学放射線療法の効果が気になるところです。なぜならば、既報の化学放射線療法のエビデンスは、ほぼ古い化学療法(ゲムシタビンやS-1などの単剤療法)に対する有効性を検討したものだからです。
まずは1から。
SBRTという、周辺臓器への線量を低減し病変により線量を集中できる照射方法が近年主流になりつつあります。この方法は、線量を増やし、かつ5回程度で目標線量を照射できます。SBRTでは、従来の照射方法(conventional RT)と比較し、生存期間を延長する可能性が報告されています(de Geusら2017, Zhongら2017)。
同様の結果がTchelebiらによるメタアナリシス2020で報告されました。彼らは、局所進行膵癌 (1147人の患者)におけるSBRTに関する9件の研究とCRTに関する11件の研究を対象としました。SBRTでは、中央値は30Gyで、最も一般的なレジメンは30Gyを5回分割したものでした。CRTでは、ゲムシタビンを併用し、28分割で50.4Gyを投与する研究が大半でした。2年OSはSBRT法が有意に優れていました(SBRT法26.9% vs CRT法13.7%、p = 0.004)。また、急性毒性は標準的な放射線治療を受けた患者でグレード3-4が有意に高かったが(SBRT 5.6% vs CRT 37.7%, p = 0.013)、晩期毒性に関しては両者間に差はなかったと報告されています。
conventional RTでは化学療法単独と比べ、局所制御への上乗せはわずかで、全生存へは寄与しないことが報告されています。しかしSBRTにおいては、転移が少数な症例では、とくに肝転移に照射することで予後に寄与する可能性が報告されています(Oladeruら2019)。
次に2です。
ネオアジュバント化学療法は、腫瘍を縮小し、切除の可能性を高め、隠れた転移病変のある患者を除外するために使用されます。しかし、resectableやBRでネオアジュバントを考慮するような症例への無作為化データはまだ不足しています。現状では、最も有効な化学療法レジメン(FFXまたはGnP)を行うことが推奨されています(Burkonら2022)。
有効性は不明ですが、GnPやFFXにSBRTを併用した場合の安全性に関して複数の報告があります(例えばHillら2022)。
以上のことから、私が放射線療法を考慮する条件は:
①化学療法をやり尽くしても局所進行の状態、
②BRやURの症例において、最低3ヶ月のGnPやFFXが有効だが手術可能な状態には至らず、それでも手術を何とかして行いたい症例で、かつ化学療法の中断が最小限になるSBRTを行えること、
です。
陽子線や重粒子線が、通常の放射線治療で用いられるγ線よりも有効である可能性が研究されていますが、治療期間が3-4週間でありconventional RTと同等です。①としては陽子線や重粒子線でいいのですが、②としては1週間で完了するSBRTの代わりとしては使いにくいです。②の場合は、GnPがだめでもFFXやNAPOLIレジュメにすぐ移行するという選択もできるため、化学療法は中断するにしても最小限にしたいのです。
今回の記事は、Burkonら2022のレビュー論文を軸にしました。
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