肝細胞癌2024 〜分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬 〜
使用する順番をまとめてみます。
種類が多いですよね。
分子標的薬:ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボサンチニブ
免疫チェックポイント阻害薬:デュルバルマブ+トレメリムマブ
これらの併用:アテゾリムマブ+ベバシズマブ
これらの使い分けに関しては、肝癌診療ガイドライン2021年版に記載があります。
また2021年の肝臓学会教育講演で勉強したことを加えてまとめてみます。
<まずは1st lineをどうするか?>
2021年日本肝臓学会肝癌診療ガイドライン(補訂版)では、『外科手術/移植/RFA/TACEが適応とならないChild-Pugh(A)の症例』における治療は、全身化学療法のアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法またはデュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法が第一選択として推奨されています。
第二選択は単剤療法で、ソラフェニブ、レンバチニブ、デュルバルマブのいずれかとされています。
これらの特徴なのですが、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は、ソラフェニブに対して優越性を示しました(IMbrave150試験)。デュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法も、同様にソラフェニブに対して優越性を示しました(HIMALAYA試験)。レンバチニブとソラフェニブは同等です(REFLECT試験)。
アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は、高齢者でも忍容性がわりとあるようです。
生存期間中央値、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法で1年半、ソラフェニブとレンバチニブは1年というイメージです。
この事項に関しては、肝癌診療ガイドライン2021年版において、2023年に以下のような追記がされました:
2022年12月にデュルバルマブ単剤、2023年3月にトレメリムマブ+デュルバルマブ併用療法が保険適用されたことを受け、ガイドラインの改訂が行われました。
アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法(IMbrave150試験)とトレメリムマブ+デュルバルマブ併用療法(HIMALAYA試験)の効果を比較するために、それぞれの試験結果を検討し、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の方が奏効率が高く、副作用も少ないことが示されました。しかし、これらは直接比較ではなく、完全に優劣を決めることはできませんでした。
最終的に、委員会での議論の結果、一次薬物療法としては「アテゾリズマブ+ベバシズマブまたはトレメリムマブ+デュルバルマブ併用療法を並列に推奨する」案が採択されました。二次治療については、これらの治療が適さない場合は、ソラフェニブ、レンバチニブ、またはデュルバルマブが推奨されました。
IMbrave150試験とHIMALAYA試験の結果は、以下の通りです。
試験間で比較することは、上記の提言通り適切ではありませんが、確かにアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法の方が、デュルバルマブ+トレメリムマブ併用療法よりも生存期間や有害事象の点ではよさそうに見えてしまいます。
私の施設でも、基本的にはアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を先にすることが多いです。
試験名 | 治療法 | 肝予備能 | 症例数 | 生存期間中央値 | ハザード比 | 無増悪生存期間中央値 | 無増悪生存ハザード比 | 奏効率 | 腫瘍制御率 | PD率 | 免疫関連有害事象への全身ステロイド使用割合 |
IMbrave150試験 | アテゾリズマブ+ベバシズマブ | Child-Pugh分類A | 336 | 19.2ヵ月 | 0.65 | 6.9ヵ月 | 0.65 | 30% | 74% | 19% | 12.2% |
IMbrave150試験 | ソラフェニブ | Child-Pugh分類A | 165 | 13.4ヵ月 | 0.65 | 4.3ヵ月 | 0.65 | 11% | 55% | 25% | - |
HIMALAYA試験 | トレメリムマブ+デュルバルマブ | Child-Pugh分類A | 393 | 16.4ヵ月 | 0.78 | 3.8ヵ月 | 0.9 | 20.1% | 60.1% | 39.9% | 20.1% |
HIMALAYA試験 | ソラフェニブ | Child-Pugh分類A | 389 | 13.8ヵ月 | 0.78 | 4.1ヵ月 | 0.9 | 5.1% | 60.7% | 39.3% | 1.9% |
<2nd line以降>
ざっくり言えば、それまでに使っていない薬剤を選ぶだけです。
選びやすいように少し補足します。前置きとしてどれが最も有効かはまだわかっていません。
ラムシルマブはとくに高齢者に対する忍容性が高いようですが、導入のためにはAFP>400という縛りがあります(REACH-2試験)。逆に、レゴラフェニブは副作用やそれによる治療中止の頻度が高く、2ヶ月は毎週採血と診察が推奨されています(RESORCE試験)。
全ての薬を使い切ることが理想ですが、ADLや肝機能を代表とする忍容性低下が起こり、使いきれないことも多いようです。分子標的薬は、肝機能低下が起こり易いとされています。この肝機能は重要で、分子標的薬の大規模試験では症例組み入れ条件をChild-Pugh(A)としているため、Child-Pugh(B)となると基本的には適応外となるためです。またChild-Pugh(A)でも、6点の方が5点よりも早くにChild-Pugh(B)になるとされています。そのため、分子標的薬はTACEで粘りすぎずに早めの導入が重要と言われていますし、3rd line以降は忍容性が保たれ易い薬を選択することも重要な着眼点かもしれません。
最後に副作用ですが、薬ごとの個別に覚えるのは大変なので、ざっくり記載します。
分子標的薬で起こり易い副作用は、高血圧、タンパク尿、甲状腺機能異常、手足症候群、嗄声、肝障害、食指不振や倦怠感といったところです。
また免疫チェックポイント阻害薬では、すべての臓器で自己免疫疾患が増え、発症時期の予測は難しいとされています。免疫チェックポイント阻害薬中止後に合併することもあるため、使用歴がある患者さんでは長期に注意が必要になります。膠原病に対する定期検査(関節炎、皮疹、末梢神経障害、抗核抗体、リウマチ因子)、内分泌機能検査(下垂体、甲状腺、副腎、性腺)の定期チェックをします。当院でも、採血ルーチンセットを用いています。
分子標的薬は種類が多く順序に迷いますが、アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法を第一に用い、2次治療以降では患者さんの忍容性に合わせて、それまでに使っていない薬剤を選択していきます。
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