胆道癌の化学療法2024 〜切除不能例、術後、術前化学療法の現状〜

2021年6月11日

Gemcitabine、S-1、Cisplatinのこの3つが基本的な薬剤で、現在の標準治療はそれらをどう組み合わせるかの問題です。

皆さんの施設ではどのように使われていますでしょうか。

切除不能/再発の症例に対しては、以下のような試験があります:
1)ゲムシタビン+シスプラチン(GC)が、ゲムシタビン単独に対して有意に生存期間を延長すること(ABC-02試験),
2)ゲムシタビン+S-1(GS)の、GCに対する全生存期間(OS)における非劣性(FUGA-BT試験)、
3)ゲムシタビン+シスプラチン+S-1(GCS)のGCに対するOSの優位性(MITSUBA試験
4) GC療法+nabPTXはGC療法に対して優越性はないこと(NCT03768414試験
5) Durvalumab+GCはGCに対して優越性があること(TOPAZ-1試験)が報告されています。
また、
6) modified FOLFIRINOXとGC療法を比較した試験(PRODIGE38-AMEBICA試験)
7) nal-IRI + 5FUとGC療法を比較した試験(NIFE試験)などは進行中です。
1-5)が有効性が既に判明した試験ですが、それらより切除不能進行胆道癌に対して、GCDまたはGCSが標準的な治療法として確立されました。

私はGCDをファーストにします。理由は2つ、S-1をセカンドラインとして残しておけることと、免疫チェックポイント阻害薬の特性であるtail plateauに期待するからです。
Tail plateauとは、ある期間から死亡例がほとんど出なくなり、治療終了後も長期にOSのKM曲線が横ばいになる現象です。この現象は、免疫チェックポイント阻害薬が活性化するT細胞の"記憶"の能力によることが理由の1つと言われています。
(Tail plateauや免疫チェックポイント阻害薬の作用機序については、"免疫チェックポイント阻害薬正体─がんに効くしくみと治療“が分かりやすく解説してくれておりますので紹介しておきます。私は、がん治療認定医を受験する際にかなり勉強しました。)

術後化学療法としては、本邦では標準治療として確立しているものはありませんが、以下のような試験があります:
1) S-1のGemcitabineに対する優越性(KHBO1208試験)
2) S-1の経過観察に対する優越性(ASCOT試験(JCOG1202試験))
3) Capecitabineも有用な可能性があるがITT解析では有意差がありませんでした(BILCAP試験)
4) CapecitabineとGC療法を比較した試験が途中(ACTICCA-1試験)
5) R1切除となった胆嚢癌と肝外胆管癌に対しては、capecitabine+放射線治療が有用 (SWOG S0809)
BILCAP試験の結果から、ASCO やNCCNでは術後化学療法として推奨がある。
本邦でも2)のASCOT試験を受けてガイドラインの推奨が変わりそうですね。
しかし胆道癌の手術は難易度が高いものが多く、偶発症も少なくありません。そのため術後の回復も遅く手術からアジュバント化学療法を開始するまでの期間が長いことも問題です。KHBO1208試験では、約40%の患者が術後10週間以上経過してから補助化学療法を開始しました。

この問題のため、まだ患者さんの機能が保たれている状態での術前化学療法が期待がされます。R1切除を受けた患者に対する補助療法の効果は不明であり、R1切除は胆道がん切除後の予後不良因子として知られている(※)ことから、胆道がんの手術ではR0切除を確実に行うことが非常に重要です。ネオアジュバント療法は、腫瘍径を小さくすることでR0切除率を高め、術後の予後改善に寄与することが期待されています。
術前化学療法としては、蓄積されたエビデンスは乏しいのが現状です。
学会では、GCS療法からのコンバージョン手術を数年前から耳にするようになりました。
Gemcitabine+Cisplatin+nabPaclitaxelの第Ⅱ相試験は良好な成績(※※)で、第Ⅲ相試験も行われるようですね。
1) GCS療法に対する期待(KHBO1201 第Ⅱ相試験など)
2) GCnP療法
3) Gemcitabine+放射線(第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験)(※※※)


GCS療法のレジュメは、
・ゲムシタビン 1000mg/m2/day1 
・シスプラチン 25mg/m2/ day1 
・S-1 40-60mg/bodyを1日2回/ day1-7 
これを2週間ごとです。
(3週間ごとのGC療法とは少し内容が違い、単純にS-1を足したものではありません)


Gemcitabine+放射線のレジュメは、
「小林ら:ゲムシタビンの全量投与(1000mg/m(2)を1日目、8日目、15日目、4週間ごと)を3サイクル行い、主な腫瘍と局所および大動脈傍リンパ節に50~60Gyの放射線(2Gy/日)を照射する」
「Katayoseら:ゲムシタビン600mg/m2を3週間ごとに1日目と8日目に2サイクル投与し、45Gyの放射線治療を併用する」ものです。小林らの方法では、好中球や血小板の減少を代表として有害事象が84%で起こったようですが、効果も高い結果だったようですね。

海外での学会で発表されたGCS療法の第Ⅲ相試験の演題も提示しておきます。
GC療法に対するGCS療法の優越性を示しました。さらにコンバージョン手術に移行できた症例もGCS療法で多かったようです。
この試験では、OSはGC療法12.6ヶ月に対してGCS療法13.5ヶ月であり、統計学的にもGCS療法が良好でした。私が着目したのは、副次評価項目の奏功率responce rate(RR)です。GC療法のRRは15.0%で、縮小効果は強くないSDがイメージのレジュメでした。GCS療法のRRは41.5%であり、縮小効果がかなり期待できるようになりました(PRのイメージのレジュメ)。そのためconversion手術を視野に入れた術前化学療法として期待できると思っています。




胆道癌に対する化学療法と化学放射線療法のまとめ/現在進行している臨床試験について、Reiview articleが2020に出ています。

この表は、今後の臨床研究による有効性の証明が期待されているものになります。


胆管癌手術の高侵襲性から、術後は化学療法への忍容性が低下するため、術前化学療法に期待があるのですね。

(※)
肝門部領域:Nagino M, et al. Evolution of surgical treatment for perihilar cholangiocarcinoma: a single-center 34-year review of 574 consecutive resections. Ann Surg 2013;258:129–40.
遠位胆管:Wellner UF, et al. The survival outcome and prognostic factors for distal cholangiocarcinoma following surgical resection: a meta-analysis for the 5-year survival. Surg Today 2017;47: 271–9)

(※※)
Shroff RT, et al. Gemcitabine, cisplatin, and nab- paclitaxel for the treatment of advanced biliary tract cancers: a phase 2 clinical trial. JAMA Oncol 2019.

(※※※)
第1相試験:Kobayashi S, et al. Evaluation of the safety and pathological effects of neoadjuvant full-dose gemcitabine combination radiation therapy in patients with biliary tract cancer. Cancer Chemother Pharmacol 2015;76:1191–8.
第Ⅱ相試験:Katayose Y, Nakagawa K, Yoshida H et al. Neoadjuvant chemora- diation therapy for cholangiocarcinoma to improve R0 resection rate: the first report of phase II study. J Clin Oncol 2015;33:402

2021年6月11日

Posted by ガイドワイヤー部長