肝細胞癌 〜TACEの新しい知見2023〜
2022年までの数年で、TACE不応となりやすい症例の察知(Up-to-7ルール)や分子標的薬はChilid-pugh(A)で有効性が高く、TACE後では肝機能が落ちた状態で分子標的薬を導入することになるなどの理由から、TACEへの逆風がありました。しかし2023年のIVR学会誌に、TACEを見直す総説が掲載されました。(IVR学会誌のTACEに対する総説なので引用した論文などの選択バイアスなどについては考慮する必要がありますが)
まずはTACE(塞栓術)の適応ですが、日本の肝癌ガイドラインと欧米のBCLCステージングに基づいた推奨を提示します。
日米欧のガイドラインに加え、RFAは3cm以内がいい適応で4cm以上になると有効性が落ちることを考慮すると、日本でのTACEの適応を簡潔に述べるなら「3cm以上または4個以上のHCCで、遠隔転移のない症例で適応を考慮する」でいいかと思います。切除、移植、分子標的薬とTACEは、適応が一部で被るので"考慮"を要しますが。
2022年までの数年で、TACE不応となりやすい症例の察知(Up-to-7ルール)や分子標的薬はChilid-pugh(A)で有効性が高く、TACE後では肝機能が落ちた状態で分子標的薬を導入することになるなどの理由から、TACEへの逆風がありました。
しかし分子標的薬+TACEの併用療法や、TACE不応となりレンバチニブを使用したがそれも不応となったあとの再TACE(Re-challenge TACE)の有用性が報告されています:
表の最上段に提示した文献は全てRCTですが、1つを除き併用療法の有用性は否定されています。
しかし数十例の検討ではありますが、併用療法が有効である可能性、TACE不応後にLEN単独ではなくTACE継続+LENが有用である可能性、TACE不応後にLEN投与していてそれも不応になったら再TACEが有用に戻る可能性などが報告されています。
肝臓癌は、意外と長期に生存できる症例を、他の消化器癌よりも経験します。
全身化学療法(分子標的薬または免疫チェックポイント阻害薬)も複数ありますが、レゴラフェニブ、カボサンチニブ、ラムシルマブなどは予後延長のようなハードアウトカムに対する効果は弱いまたはエビデンスが少ないです。
TACEは、手術不適応の症例に対して、全身化学療法に先立ち単独で施行することが多いと思います。しかし同時併用、またはTACE不応かつ全身化学療法不応後の再施行(Re-challenge TACE)なども選択肢になるようです。同時併用療法は否定的なRCTが多いので一般的な総合病院ではやりにくいですが、「"患者さんは元気なのに全ての選択肢をやりつくした症例"への再TACE(Re-challenge TACE)」はやりやすい気がします。
放射線治療は、このような最終段階のころには、広がりや肝機能の点で適応にならないと思いますので、私はRe-challenge TACEに期待したいです。
最後にTACEが肝機能を落とす根拠となる文献を紹介しておきます:
Yasuiら, Hepatorol Res 2018
Hirookaら、Dig Dis 2017
全ての選択肢を、不応となるまで使い切りたいが、分子標的薬はChild-pugh(A)で導入した方が有効性が高く、TACEはこの肝機能を落としてしまうというジレンマがTACEへの逆風です。
TACEで肝機能が落ちてしまうという論文は先ほど紹介したばかりで、肝機能を落とす前に分子標的薬に移行することが重要と言われています。影山らの報告でもTACE後1−3ヶ月では落ちなかったとしており、期間を限定してのTACE後に分子標的薬に移行することを決めたSequentialな方針もありなのかもしれませんね。
“患者さんは元気なのに、TACEを含めた全ての選択肢をやりつくした症例"への再TACE(Re-challenge TACE)"に私は期待しています。
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